重要なポイント
- は監査業務の開始前に書面合意を求めている
- 継続業務でも毎年 に基づく状況変化の評価と文書化が必要
- 署名時期の遅延は欧州の規制当局が最も頻繁に指摘する不備の一つである
仕組み
ISA 210.10は、監査人が業務を開始する前に、経営者およびガバナンス責任者との間で業務条件について合意し、書面化することを要求している。契約書には最低限、以下の要素が含まれる:財務報告の枠組みの特定、監査の目的と範囲、経営者の責任(内部統制の整備・運用、完全な情報へのアクセス提供を含む)、監査人の責任、監査報告書の想定される様式と内容。
ISA 210.13は、継続業務において毎年新たな契約書が必要かどうかの評価を求めている。範囲・枠組み・ガバナンス体制・規制環境に変更があれば、改訂が必要だ。変更がない場合でも、評価を実施した事実自体を文書化しなければならない。
欧州の規制当局(FRC、AFM等)が最も頻繁に指摘する問題の一つは、フィールドワーク開始後に契約書が署名されるケースである。これはISA 210.10の「開始前」要件に違反する。契約書の日付が実務開始日より後であれば、検査で必ず指摘対象となるだろう。
実務例:Kowalski Sp. z o.o.
クライアント:ポーランドの建設業者、2024年度、売上高EUR 28百万、IFRS適用。
前年度の監査で契約書に関して2つの問題が発生していた。第一に、契約書の署名日が期中監査の開始日より3週間後であった。第二に、契約書にIFRS 15に基づく工事進行基準の適用が監査範囲に含まれるとの明示がなかった。
2024年度の監査では、チームリーダーがISA 210.10に基づき以下の手順を実施した。「2024年9月15日:エンゲージメントレターの草案をクライアントCFOに送付。経営者の責任(ISA 210.6(b):すべての情報への無制限アクセス提供を含む)を明記。IFRS 15に基づく工事契約の収益認識が監査範囲に含まれることを第3条に追記」と記録した。
契約書は2024年10月1日に署名され、期中監査は2024年10月14日に開始された。「ISA 210.10充足:契約書署名日(10月1日)は監査業務開始日(10月14日)に先行。前年度の不備を是正」と文書化した。
ISA 210.13に基づく継続業務評価も実施した。前年度から2つの変更があった。第一に、グループ構造の変更(子会社1社の設立)。第二に、EU分類規則に基づくサステナビリティ報告の新規要件。「ISA 210.13評価:2つの変更を識別。契約書を改訂し、新設子会社の連結範囲への包含とEU分類規則対応を業務範囲に追加」と記録した。
結論:契約書の署名時期と内容の網羅性は、検査で最も注目される論点の一つだ。前年度の不備を当年度で是正し、文書化することが品質管理上の重要な改善プロセスとなる。
よくある誤解
- フィールドワーク開始後に契約書を署名する ISA 210.10は監査業務の開始前に書面合意を求めている。FRCとAFMの検査報告では、署名日が実務開始日より後である事例が繰り返し指摘されている。契約書の日付管理は形式的だが実質的に重要である。
- 毎年の継続業務評価を省略する ISA 210.13は状況変化の有無を毎年評価するよう求めている。変更がない場合でも「評価した結果、改訂不要と判断した」旨の文書化が必要だ。評価自体の記録がなければ検査で不備となる。
- 契約書のテンプレートを状況に合わせず使い回す グループ監査の範囲変更、新たな規制要件、財務報告枠組みの変更などがあれば、契約書の内容を更新する必要がある。前年のテンプレートをそのまま使用した契約書は、ISA 210.13の要件を満たさないリスクがある。
- 経営者の責任条項を曖昧に記載する ISA 210.6(b)は、経営者がすべての関連情報への無制限アクセスを監査人に提供する責任を明記するよう求めている。この条項が欠落または曖昧な契約書は、監査中のアクセス制限トラブルの原因となる。