Definition
統制テストで「25件中0件の逸脱」と書いた調書が、品管レビューで差し戻される。サンプルサイズの算定根拠が記録されていない。金融庁の2024年度モニタリングでも、統制テストのサンプルサイズ根拠の不備は繰り返し指摘されている。属性サンプリングは、母集団内のある特性の発生率を推定する統計的サンプリング手法であり、監基報530.5が規定する。内部統制の運用評価で最も使われる。
仕組み
年間1,000件の請求書承認をすべて検査するのは現実的ではない。無作為に選んだ一定数の項目を検査し、その結果から母集団全体の統制の運用状況を推測する。これが属性サンプリングの骨格。
監基報530.5Aはプロセスを4段階に分けている。
第1段階は母集団の定義。何を対象とするか、期間はいつか、どの部門か。境界が曖昧なら結論も曖昧になる。第2段階はサンプルサイズの決定で、予想逸脱率(監査人が事前に見込む統制の失敗率)と許容逸脱率(監査人が許容できる最大失敗率)が関係する。許容逸脱率2%で予想逸脱率0.5%ならサンプルサイズは小さくなる。許容逸脱率を1%に絞ればサンプルは増える。
第3段階はサンプルの抽出。無作為抽出が原則で、高リスクと判定した承認者の請求書ばかり選ぶのは統計的サンプリングではない。リスク指向サンプリングにすぎず、監基報530の定義を満たさない。第4段階は結果の評価。監基報530.A2が求める評価は単純ではない。サンプル内で見つかった逸脱数から、母集団全体における推定逸脱率の上限(上限逸脱率)を算出する。上限逸脱率が許容逸脱率以下なら統制に十分な証拠がある。超えたなら依拠できない。上限逸脱率は点推定値ではなく、信頼度90%や95%での推定値という点に注意が必要。
統計的属性サンプリングと非統計的属性サンプリングの差は、計算に表を使うか判断を使うかの1点に尽きる。統計的方法は再現性がある。非統計的方法は柔軟だが、同じ条件でも監査人によってサンプルサイズが変わりうる。経験上、非統計的方法を選んだ繁忙期の調書は、翌年の審査で「なぜこの件数なのか」と問われやすい。
実施事例:フォルトゥナ金属工業株式会社
クライアント:東京の金属製品製造業、2024年度決算、売上14億8,000万円、日本基準採用。
フォルトゥナ金属工業は子会社を含めて200件超の月次売上計上処理がある。営業部長と経理部長による2段階承認が必要で、監査人は「月次売上承認が適切に実施されているか」を統制テストで検証したい。
第1段階(母集団定義) 対象期間:2024年4月~2025年3月 処理件数:245件(親会社売上計上のみ) 母集団特性:請求書番号順に昇番。3月は月末対応で250件あったが、4月振替は2件。実際の母集団は245件で確定。
文書化メモ:属性サンプリング計画書(様式第12号)に母集団として245件と明記、承認者の職務等を整理した。
第2段階(サンプルサイズ決定) 許容逸脱率:2.5%(承認漏れは致命的だが、月1件程度なら許容) 予想逸脱率:0.5%(過去3年で承認漏れは年平均1~2件) 信頼度:95%(高い信頼性が必要)
監基報530.6で許容される統計表(AICPA表またはOC曲線)を参照すると、サンプルサイズは約150件。
文書化メモ:統計表引用を記録。許容逸脱率2.5%、予想逸脱率0.5%、信頼度95%から、サンプルサイズ150件と決定。根拠を調書に添付。
第3段階(サンプル抽出) 245件を体系的に選別。245÷150 = 約1.63。開始点を乱数生成器で決定(この場合は7番目の請求書)。以後1.63件ごと、つまり2件飛ばしで1件選ぶパターンで150件を抽出。結果、請求書番号7、10、13、16……248。
文書化メモ:抽出方法(体系的無作為抽出)、抽出スケジュール(1.63間隔)、実際に選ばれた請求書番号リスト150件を調書に記載。
第4段階(結果評価) 150件すべてを検査した結果、2件の逸脱を発見。 - 請求書番号89:経理部長承認なし。営業部長承認のみで計上。 - 請求書番号156:2段階承認は完了しているが、承認日付が売上計上日より1週間後。適時性を欠く。
150件中2件の逸脱。推定逸脱率 = 2÷150 = 1.33%。
母集団全体での逸脱率の上限(上限逸脱率、信頼度95%)を計算する。監基報530.A2の評価方法を適用すると、上限逸脱率は約4.2%。
文書化メモ:抽出150件に対し逸脱2件。推定逸脱率1.33%。統計表より信頼度95%での上限逸脱率4.2%と計算。許容逸脱率2.5%と比較し、上限逸脱率4.2% > 許容逸脱率2.5%のため、この統制の運用に十分な証拠が得られなかったと判定。
上限逸脱率4.2%が許容逸脱率2.5%を上回ったため、月次売上承認統制に依拠できない。監査人は追加の実証的手続(売上が計上された請求書との照合等)を拡張する。この統制だけでは売上主張に十分な信頼は置けない。
査察で指摘される事項
母集団の定義が曖昧な調書が多い。「月末日の処理をどこまで含めるか」「返品や修正仕訳をどう扱うか」が不明確な場合、監基報530.A2が求める母集団の完全性を欠く。金融庁の2024年度モニタリングでは、母集団定義の不備が統制テストの証拠不十分の主な原因と指摘された。
許容逸脱率や予想逸脱率の設定に根拠を示さない監査人も多い。「経験則で決めた」では査察官は納得しない。業務リスク、過去の不備状況、統制の重要性から、なぜその数値を選んだのかを調書で説明する。SALYで前年の数値をそのまま使い回す調書は、品管の審査で真っ先に引っかかる。
業務効率化の名目で「高リスク期間を重点的に」選ぶケースがある。これは統計的サンプリングではなく、リスク指向サンプリングであり、監基報530の属性サンプリング定義を満たさない。
サンプル内で逸脱が見つかったのに「サンプルが小さいから母集団での逸脱は少ないと考える」という後付け判断をする監査人がいる。評価結果が許容水準を超えたら、統制に依拠できない。統計学の原則であり、判断の余地はない。
属性サンプリング vs. 変数サンプリング
属性サンプリングは「統制が機能したか・していないか」という2値の結果を測定する。変数サンプリングは「金額がいくら誤っているか」という量的な誤謬を推定する。適用場面が根本的に異なる。
統制テスト(請求書の承認統制が機能しているか等)には属性サンプリング。実証的テスト(売上の残高が正しく計上されているか、金額の誤謬はいくらか等)には変数サンプリング。混同すると、手続の目的と手法が乖離し、監査証拠としての力が失われる。
関連する用語
- 統制テスト: 統制が設計どおりに機能しているかを検証する手続。属性サンプリングの最も一般的な適用場面
- サンプリングリスク: サンプルに基づく結論が、母集団全体の実態と異なる可能性。属性サンプリングでは許容逸脱率と上限逸脱率の関係で表現される
- 無作為抽出: 統計的に有効なサンプルを得るための必須条件。監基報530.A1で明示的に求められている
- 監基報530: 監査におけるサンプリングを規定する基準。属性サンプリングと変数サンプリングの定義、適用、評価方法をカバー
- 許容逸脱率: 監査人が許容できる統制の失敗率の上限。サンプルサイズ決定の主要因
- 上限逸脱率: 推定される母集団での逸脱率の最大値(信頼度をもとに計算)。許容逸脱率との比較で統制の評価が決まる
関連ツール
フォルトゥナ金属工業の例のようなサンプルサイズ計算をシステマティックに行うには、監基報530統計表計算機が役立つ。許容逸脱率、予想逸脱率、信頼度を入力すれば、必要なサンプルサイズが自動計算される。統計表を手作業で引く手間が減り、計算根拠が記録に残る。
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