この記事で学べること

- レビュー業務で必須となる手続の具体的な実施方法 - 照会と分析的手続を組み合わせて心証を形成する方法 - レビュー報告書の記載事項と表現方法 - ISRE 2400.34が求める文書化要件の充足方法

目次

1. レビュー業務の基礎概念 2. 改訂ISRE 2400の変更点 3. レビュー手続の実施方法 4. 実践例:製造業のレビュー 5. 実用的チェックリスト 6. よくある間違い 7. 関連コンテンツ

レビュー業務の基礎概念

ISRE 2400が定める業務目標

ISRE 2400.11はレビュー業務の目標を定めている。実施者は、主として照会と分析的手続により限定的保証を得て、財務諸表に重要な修正が必要な事項について何ら認識していない旨を表明する。監査の合理的保証とは異なる。

監査では「財務諸表が重要な点において適正に表示されている」という積極的な意見を表明する。レビューでは消極的保証にとどまる。この差異が手続の範囲と深度を決定する。レビューだからといって手続が軽くなるわけではない。照会と分析的手続の範囲内で、十分な心証を形成しなければならない。

照会と分析的手続の位置づけ

ISRE 2400.27はレビュー業務の主要な手続として照会と分析的手続を挙げている。立証手続、確認状の送付、実地棚卸の立会等は通常実施しない。ただし照会や分析的手続により把握した事項について追加手続が必要と判断した場合は別。

分析的手続では、勘定残高や比率の変動要因を分析し、経営者の説明と財務数値の整合性を確認する。照会では、会計方針の変更、重要な取引や事象、訴訟等の偶発債務について質問する。両手続の組み合わせでレビューの心証を形成する。

改訂ISRE 2400の変更点

品質管理要求事項の強化

2019年に改訂されたISRE 2400は、品管の要求事項を大幅に強化した。ISRE 2400.20は業務責任者に十分な能力と権限を求めている。上場会社の監査責任者としての経験、またはそれと同等の経験が必要となる場合がある。

改訂前は品管の要求が抽象的だった。改訂版では具体的な責任分担、審査要件、文書化義務を明記している。業務の承認プロセスと最終的な品質確保責任について、曖昧さを残さない規定になった。

文書化要求事項の詳細化

ISRE 2400.34以降で規定される文書化要求事項が詳細になった。実施した照会の内容と相手方、分析的手続の具体的な方法、把握した事項に対する評価プロセスを記録する。

「経営者に照会し回答を得た」では通らない。どのような質問をし、どのような回答を得て、その回答をどう評価したかまで調書に残す。ここが改訂前と最も大きく変わった点。

独立性要求事項の明確化

ISRE 2400.16は、監査人の独立性について監査と同等の厳格性を定めている。レビューだからといって独立性要件は緩和されない。利害関係の回避、長期の業務関与に対する制限、報酬の事前決定。全て監査と同じ水準。

レビュー手続の実施方法

分析的手続の実施

分析的手続では、前期比較、予算対実績比較、同業他社比較、非財務情報との照合を組み合わせる。ISRE 2400.28は期待値を設定し、実際の数値との差異を分析するよう定めている。

売上高の分析では、月次推移、四半期推移、商品別・地域別の内訳を確認する。期待値は過去実績、予算、業界統計、季節要因等を考慮して設定する。差異が閾値(通常10〜15%)を超えた場合、経営者への照会を行う。

総利益率の分析では、売上原価の構成要素(材料費、労務費、製造間接費)別の変動要因を把握する。在庫の評価方法、原価計算方法、期末仕掛品の評価に着目し、異常な変動がないか確認する。

照会手続の構造化

照会には準備がいる。ISRE 2400.29が例示する照会事項を参考に、事前に質問項目を整理しておく。重要な取引、会計方針の変更、偶発債務、後発事象について具体的な質問を用意する。

照会は経営者だけでなく、経理責任者や内部監査責任者にも実施する。複数の担当者から同一事項について照会し、回答の整合性を確認することで信頼性を高める。

口頭での照会だけでなく、訴訟、重要な契約の変更、関連会社取引等については書面による確認を求める。経験上、口頭だけで終わらせたレビューファイルは、後から見返したときに判断の根拠がわからなくなる。

異常項目への対応

照会や分析的手続により把握した異常項目については、追加手続を実施する。ただし監査手続まで実施する必要はない。ISRE 2400.31はレビューの性質に適合した範囲での追加手続を求めている。

売上債権の残高が異常に増加している場合、月別の売上計上額と回収額を確認し、滞留債権の内訳を照会する。必要に応じて債権明細を閲覧するが、確認状の送付までは通常行わない。

棚卸資産で異常が発見された場合、在庫の保管状況、評価方法の変更有無、廃棄・評価減の実施状況について照会する。実地棚卸への立会は行わないが、棚卸実施状況の報告書を閲覧することはある。レビューと監査の境界線はここ。手続の種類ではなく、手続の深度で区別する。

実践例:製造業のレビュー

田中精密工業株式会社(架空)。従業員280名の中堅製造業、年間売上高68億円。主力商品は自動車部品と工作機械部品。四半期決算のレビューを実施する。

前期比較分析の実施から入る。売上高は前年同期152億円から当期164億円へ7.9%増加。売上総利益率は前年同期22.3%から当期24.1%へ1.8ポイント改善。自動車業界の回復基調と新規受注獲得により売上が増加し、原材料価格の安定化により総利益率が改善した。経営者への照会により確認済み。

月次推移分析に移る。4月の売上高48億円(総利益率21.8%)、5月は54億円(24.9%)、6月は62億円(25.6%)。6月の売上急増が目立つ。経営者に照会したところ、大口受注案件の売上計上時期が集中したとの回答。契約書を閲覧し、収益認識の妥当性を確認した。

売上債権の分析では、回転期間が前年同期62日から当期71日へ9日延長。6月末残高に占める6月売上の割合は78%(前年同期は65%)。6月売上集中による一時的な増加と判断。7月入金状況を確認し、異常な滞留はないことを把握した。

在庫分析と照会では、在庫回転期間が前年同期48日から当期52日へ4日延長。仕掛品構成比は前年同期34%から当期41%へ7ポイント増加。大口受注案件の製造工程で仕掛品が増加した。製造部長への照会により、7月末までに完成予定であることを確認。陳腐化や評価減の必要性はないと判断した。

実施した照会と分析的手続に基づき、四半期財務諸表に重要な修正が必要な事項について何ら認識しなかった。売上増加と在庫増加は事業環境の好転に対応した正常な変動と判断する。

実用的チェックリスト

1. ISRE 2400.20に基づき業務責任者の適格性を確認し、独立性要件への抵触がないことを文書化する

2. 前期比較、予算比較、月次推移の角度から分析し、異常変動(10%超の差異)をすべて摘出する

3. 重要な取引、会計方針変更、偶発債務、後発事象の各分野で具体的な質問項目を事前に整理する

4. 照会と分析的手続で把握した異常事項について、レビューの性質に適合した範囲で追加手続を実施する

5. 実施した照会の相手方・内容・回答、分析的手続の方法・結果・評価をすべて調書に記録する

6. 経営者の誠実性に疑義が生じた場合は、業務の継続可能性を検討し、必要に応じて業務を辞任する

よくある間違い

照会記録の簡略化は最も多い不備。「経営者に照会し回答を得た」だけの記録では改訂ISRE 2400の要件を満たさない。具体的な質問内容と回答内容、そしてその回答をどう評価したかまで記録する。

分析的手続の表面的実施も頻出する。単純な前期比較のみで終わり、変動要因の分析や追加照会を省略するケース。期待値を設定していないレビューファイルは、分析的手続を実施したとは言えない。

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