目次

1. ISA 550の基本要求事項 2. 関連当事者リスクの識別手続 3. 実証手続の設計と実施 4. 実務例:田中製作所での関連当事者監査 5. 実務チェックリスト 6. よくある監査上の不備 7. 関連リソース

ISA 550の基本要求事項

関連当事者監査の目的

ISA 550.6は、関連当事者監査の目的を2つに分けている。監査人は関連当事者の存在およびRP取引を識別し、これらが財務諸表に与える影響を評価する。単純に見えるが、ここで2つの異なる監査手続が分岐する。

既知の関連当事者(経営者が開示した関連当事者)については、ISA 550.18が期末残高と期中取引の実証手続を求める。一方、未知の関連当事者(経営者が開示していない関連当事者)については、ISA 550.13の発見手続が必要になる。現場では、この区別があいまいなまま調書が組まれている。

リスク評価との関連

ISA 550.11は、関連当事者リスクをISA 315のリスク識別手続に組み込むよう求めている。RP取引は虚偽表示リスクの温床になりやすい。ISA 240.A3が指摘するとおり、経営者による内部統制の無効化リスクとの関連が特に強い。

経営者がRP取引を通じて財務成績を粉飾する動機は十分にある。売上の前倒し計上、費用の関連会社への付替え、棚卸資産の過大評価、資産評価の操作。これらはすべて関連当事者スキームで実行できてしまう。

関連当事者リスクの識別手続

経営者への質問(ISA 550.13)

ISA 550.13(a)は、経営者および統治責任者への質問を求めている。ただし質問内容は戦略的に設計しなければ機能しない。「関連当事者はいますか」では何も出てこない。

具体的な取引パターンを想定した質問を投げる必要がある。

- 過去3年間に新たに設立された子会社、関連会社はあるか - 取締役、監査役、主要株主の家族が経営する会社との取引はあるか - 会社が保証人となっている借入金はあるか(保証先を含む) - 社外取締役の兼任先企業との取引はあるか

一般的な質問では、経営者は「ない」と答えて終わる。パターンを特定して聞くと、初めて「そういえば」と出てくることが多い。

会計記録の検証(ISA 550.13(b))

ISA 550.13(b)は、異常な取引の検証を求めている。RP取引にはパターンがある。

通常の事業過程外の取引、市場価格から乖離した価格設定、取引の実質的な理由が不明確なもの、期末近くに実行された大口取引、そして複雑な仕組みの取引。これらを発見するには、総勘定元帳の詳細検証が必要になる。月次推移分析だけでは見落とす。正直なところ、期末前3ヶ月の大口取引を個別に検証する手続が地味だが一番機能する。

他の監査人からの情報入手

ISA 550.13(c)は、他の監査人からの情報入手を求めている。グループ監査の場合、構成単位監査人との情報共有がここで試される。

RP取引は複数の事業単位にまたがって実行される場合がある。本社で計上された売上が、海外子会社での架空取引だったケースもある。構成単位監査人から関連当事者リストと主要取引一覧を入手し、本社の記録と照合する。この手続を省略すると、CPAAOB検査で真っ先に突かれる。

実証手続の設計と実施

取引の実証手続(ISA 550.18)

ISA 550.18は、識別されたRP取引について実証手続を求めている。手続の設計では取引の性質を考慮する。

通常のRP取引であれば、取引価格の合理性検証(市場価格との比較)と取引承認プロセスの検証、そして資金決済の確認で足りる。

複雑なRP取引になると話が変わる。取引の商業的実質の評価、取引相手の実在性確認、取引条件の詳細検証、税務への影響分析まで踏み込む必要がある。

関連当事者からの確認

ISA 550.19は、重要なRP取引について関連当事者からの直接確認を求めている。ただし確認可能性には限界がある。

RP確認が困難な場合、代替手続として銀行確認、弁護士確認、関連当事者の財務諸表入手が考えられる。期末残高については、相手方の会計記録との照合が有効だ。

経営者表明書での確認

ISA 550.26は、関連当事者に関する経営者表明書の入手を求めている。表明内容は具体的に設計しなければ意味がない。

含めるべき項目は4つ。すべての関連当事者の識別、すべてのRP取引の開示、RP取引の会計処理が基準に準拠していること、未開示のRP取引がないこと。

「すべて正しく処理している」という包括的な表明では不十分だ。具体的な事実を表明させることで、経営者の注意喚起効果も期待できる。

実務例:田中製作所での関連当事者監査

田中製作所株式会社(売上高85億円、従業員320名の機械製造業)の2024年3月期監査を例に、RP監査の実務を見ていく。

代表取締役は田中太郎(持株比率65%)。事業内容は産業用機械の製造・販売で、主要取引先は大手自動車部品メーカー5社。

関連当事者の識別

まず経営者への質問を実施した。

文書化ノート: 経営者質問の調書に質問内容と回答を記載。質問日、質問者、回答者を明記。

経営者から開示された関連当事者は2社。田中商事株式会社(社長の親族が経営、原材料仕入)と田中不動産株式会社(社長の配偶者が経営、土地賃借)。

未開示関連当事者の検索

総勘定元帳から期末前3ヶ月の1,000万円超取引を抽出し、相手先を検証した。

文書化ノート: 関連当事者発見手続の調書に抽出条件、検証結果、結論を記載。

検証の結果、新たに2つのRP取引を発見。田中技研株式会社(社長の長男が経営、技術コンサルティング契約)と、専務取締役への資金貸付。経営者が「知らなかった」はずはない取引が2件出てきた。繁忙期で調書を急いでいても、ここは省略してはならない。

実証手続の実施

田中商事との原材料取引(年間12億円)について実証手続を実施した。市場価格との比較では、類似材料の市場価格と比較し5%以内の差異を確認。取引承認については取締役会議事録で承認を確認。資金決済は銀行取引明細で確認した。

文書化ノート: 関連当事者取引実証手続の調書に手続内容、証拠書類、結論を記載。各手続に実施者と実施日を明記。

開示の妥当性検証

財務諸表注記のRP開示について、IAS 24の要求事項との照合を実施。未開示だった田中技研との取引について追加開示を要求した。

実務チェックリスト

1. ISA 550.13(a)に基づき、具体的な質問項目を準備し、経営者および統治責任者に質問する。取引パターンを想定した質問でないと、形式的な「なし」回答で終わる。

2. 期末前3ヶ月の大口取引を個別に抽出し、RP取引の可能性を検証する。取引相手の実在性と取引の商業的実質を確認する。

3. ISA 550.19に基づき、重要なRP取引について関連当事者からの直接確認を入手する。確認困難な場合は代替手続(銀行確認、相手方財務諸表入手等)を実施する。

4. 財務諸表注記のRP開示が適用される会計基準(IAS 24等)の要求事項を満たしているか照合する。

5. ISA 550.26に基づき、関連当事者について具体的な表明を含む経営者表明書を入手する。

6. RP監査は発見手続と実証手続の組み合わせ。既知の関連当事者の検証だけでは不十分で、未知の関連当事者を発見する手続も必須。

よくある監査上の不備

経営者への質問が形式的で、具体性に欠ける。「RP取引はありますか」の一問で終わらせるチームが多い。CPAAOB検査ではこの点が繰り返し指摘されている。

総勘定元帳の詳細検証を実施せず、月次推移分析のみで判断する。期末近くの大口取引にRP取引が隠れている場合がある。

関連当事者の識別ができていても、開示要件の検証が不十分なケースがある。IAS 24の詳細要求事項との照合を省略すると、審査で差し戻される。

関連リソース

- 重要性の計算ツール - RP取引の重要性判断に活用できる計算ツール - 用語集: 関連当事者 - 関連当事者の定義と識別要件の詳細解説 - ISA 240不正リスク評価ガイド - 関連当事者を通じた不正スキームとリスク評価手法

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