仕組み

ISA 580.11に基づき、経営者確認書は少なくとも以下の事項を対象とする。一つは会計基準により明示的に要求される事項である。例えばIFRSの下では、経営者は継続企業の前提に関する自らの評価について確認しなければならない。二つめは、監査人が監査を通じて特定した重要な判断である。これは貸引当金の妥当性、特別項目の分類、リース契約の会計処理の妥当性を含む場合がある。三つめは、不確定事象に関する情報である。訴訟、クレーム、補助金の返納リスク等である。ISA 580.A4では、経営者確認書に署名する者の適切な階級について監査人が満足することの重要性を強調している。最高財務責任者(CFO)と最高経営責任者(CEO)の双方の署名が必須である。
経営者確認書は、監査人が他の監査手続で入手した証拠と矛盾しないことを確認する。例えば、経営者が「訴訟は生じていない」と確認したが、監査人の法務照会で潜在的な訴訟が明らかになった場合、その矛盾は解決される必要がある。ISA 580.15では、監査人が経営者確認書の信頼性に関して疑念を抱く場合、追加的な監査手続を実施することが求められている。

実務例:東京精密機械工業株式会社

被監査会社:東京精密機械工業株式会社、FY2024、売上高8,200万円、IFRS報告者。
ステップ1:確認対象事項の決定
監査人は監査計画の段階で、経営者確認書に含める事項を特定する。本事例では、以下の主要な事項が対象となる。(1)継続企業の前提に関する経営者の評価、(2)期末での重要な引当金(製品保証、環境整備)の計上根拠、(3)顧客との紛争や潜在的な訴訟、(4)販売後の重大な事象。
文書化ノート:監査計画表に「確認書対象事項」として列記し、実施日を記録。ISA 580.11への参照を付記。
ステップ2:経営者への確認内容の伝達
監査人は、CFOと監査委員会に対し、確認書の草案を提示する。草案には、経営者が確認すべき各事項について、監査人が識別した事実と一致しているかの確認が求められることを明示する。例えば、「2024年1月から6月の間に、当社またはその子会社が法的紛争や訴訟に関わったか、あるいはその可能性があるか」といった具体的な問いかけを示す。
文書化ノート:経営者への照会メール、および草案受領の確認メールを監査ファイルに保管。
ステップ3:署名済み確認書の入手と検証
CFOと代表取締役の両者から署名を得た確認書を監査人が受け取る。署名日は監査報告書の日付より前であり、かつ経営者が財務諸表を承認した日より後でなければならない。署名者が権限のあるポジションにいることを確認する。
文書化ノート:署名済み確認書をスキャンし、「監査完了」フォルダに保管。署名者の職位、署名日、監査報告書日との整合性をチェックシートで確認。
ステップ4:他の監査証拠との整合性の検証
例えば、経営者が「期末時点で係争事件は存在しない」と確認した場合、監査人は法務部門への照会結果と突合する。もし照会結果に潜在的な訴訟が記載されていたら、その矛盾を経営者と協議して解決する。不動産や機械装置の減損テストについても、経営者の陳述(「経営方針の変更や市場状況の大幅な悪化は生じていない」)が減損テスト実施の結果と矛盾しないかを検証する。
文書化ノート:「確認書─他証拠との整合性検証」ワークペーパーに、各項目の検証結果と矛盾解決の経緯を記録。
結論
経営者確認書は、監査人が経営者の意図、今後の計画、知識のみを持つ事項に関する直接的な証拠を入手する手段である。本例では、売上高8,200万円の企業の場合でも、継続企業の前提、引当金の妥当性、潜在的紛争という3つの領域で確認書が不可欠な証拠となった。署名者の適切な階級の確保と、他の監査証拠との整合性の検証が、確認書の信頼性を確保するうえで重要である。

監査人と検査機関が見落とすポイント

  • ISA 580.11に基づく確認対象事項の漏れ:多くの監査調書では、確認書が会計基準による規定事項(例:IAS 37の引当金)のみを対象とし、監査人が特定した重要な判断や不確定事象を見落としている。ISA 580.11(b)および(c)で求められる確認事項の完全性をチェックリストで検証することが必要である。
  • 署名権者の不適切さ:CFOのみの署名で、CEOまたは代表取締役の署名がない場合がある。ISA 580.A4では「適切な階級」の署名が求められており、特に財務諸表に対する経営者の全体的な責任を担う者の署名が必須である。
  • 経営者確認書の日付が監査報告書の日付より後:これはISA 580.12の違反。監査報告書の署名前に経営者確認書を入手していることを確認するチェックリストを設けることが必要である。
  • ISA 580.20に基づく確認書拒否時の対応の不備:ISA 580.20は、経営者が確認書の提供を拒否した場合、監査人は監査意見への影響を判断しなければならないと定めている。実務では、CFOが「訴訟に関する確認事項は法務部門の管轄であり自分は確認できない」として当該項目への署名を拒否するケースがある。この場合、監査人は拒否された事項が財務諸表全体に与える影響の重要性を評価し、必要であれば限定付意見または意見不表明を検討しなければならない。拒否の理由と監査人の対応判断を調書に記録していない案件が検査で指摘されている。

継続企業の前提との関連性

経営者確認書は、ISA 570の継続企業の前提評価を補完する証拠の一つである。ISA 570.20に基づき、監査人が継続企業に関する重大な疑念を有する場合、経営者の評価と対応策について書面での確認を得ることが重要となる。経営者確認書が「継続企業として事業を継続する予定である」と述べていても、監査人が独立して入手した他の証拠(キャッシュフロー予測、借入契約の条件)と矛盾がないかの検証が必要である。

関連用語

  • 監査証拠: ISA 500はすべての監査証拠の種類を定義。経営者確認書は証拠源の一つであるが、単独では不十分である。
  • 継続企業の前提: ISA 570は継続企業評価を定め、経営者確認書がこの評価を支持する証拠となる。
  • 後発事象: ISA 560はミドイヤーレビュー以降の事象を対象。経営者確認書にはミドイヤーレビュー以降の重要な事象についても確認が含まれる。
  • 不確定事象: IAS 37およびIFRS開示基準に基づき、経営者は確認書で不確定事象の存否および評価について陳述する。
  • 監査計画: 経営者確認書の対象範囲は監査計画の段階で決定される。

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