重要なポイント

試算表は監査対象企業の内部統制における基礎的な統計的ツール。誤謬の即座の発見に直結する。
監査人が試算表の一致を確認しなかった場合、金融庁の検査では最頻出の指摘事項。
試算表の調整項目の文書化不足が、ISA 500およびISA 320に基づく監査証拠の不十分性につながる。
ISA 315.12に基づき、試算表の勘定科目構成を被監査会社の事業特性と照合し、想定される勘定科目が欠落していないか(例:製造業で仕掛品勘定が存在しない場合)を検証することが、リスク評価の出発点となる。

仕組み

試算表は各勘定科目の借方残高と貸方残高を記録する。仕訳が正しく記帳されていれば、借方合計と貸方合計は一致する。この一致が成立しない場合、記帳または転記のいずれかに誤謬が存在する。
監基報 ISA 500.12では、監査人が監査証拠を評価する際に、その信頼性を検証する必要があると定めている。試算表も証拠の一種であり、その信頼性確認は不可欠。具体的には、試算表が帳簿(仕訳帳、総勘定元帳)と一致していることを確認する。さらに、試算表から財務諸表への転記が正確であることも確認する。
多くの事務所は試算表の確認を形骸化させ、「チェックマーク」を入れるだけで済ませる。しかし、試算表に記載されていない勘定科目が存在したり、残高が誤って入力されたりした場合、その形骸化した確認では発見できない。ISA 500.A29は、試算表の信頼性評価に監査人の判断と検証を要求しており、機械的な一致確認では不十分。

実例:田中機械製造株式会社

クライアント 日本、東京。従業員150名の機械部品製造企業。2024年度売上8,500万円。日本GAAP適用。
ステップ1:試算表の取得と帳簿との突合
試算表提示日は2025年1月20日。借方合計18,340万円、貸方合計18,340万円。一致している。
文書化ノート:監査調書2-1「試算表の確認」に、提示日、借方貸方合計、帳簿との相違の有無を記載。
ステップ2:主要勘定科目の月次推移確認
売掛金残高4,200万円(前年同月:3,800万円、増加率10.5%)。売上高は前年同期比7.2%増なのに、売掛金が10.5%増加している。この乖離の理由を経理責任者に確認。回答:「Q4の売上のうち、決済期限が2月のものが含まれている。通常の範囲。」
文書化ノート:確認結果を調書に記載。Q4売上高の月別内訳を証拠として添付。
ステップ3:試算表調整項目の追跡
試算表に「未払費用」(一時的な除外項目)が記載されていない。決算整理仕訳で計上予定と記載されている。監基報 ISA 450では、識別された誤謬(未計上の未払費用も誤謬)の積算と評価が必須。この項目の金額を確認(推定280万円)し、重要性の基準値(800万円)との比較を実施。
文書化ノート:未払費用の見積額、根拠(契約書、請求書)、重要性判定を調書に記載。
ステップ4:財務諸表への転記確認
試算表の売掛金残高4,200万円が、財務諸表の貸借対照表に「流動資産・売掛金」として正確に転記されていることを確認。試算表と財務諸表の売掛金残高が一致する。
文書化ノート:転記の一致を示すため、試算表のコピーと財務諸表貸借対照表の該当箇所を並べた比較表を調書に添付。
結論
田中機械製造の試算表は帳簿と一致し、主要勘定科目の推移にも合理的な説明がある。未処理項目は重要性を下回り、試算表から財務諸表への転記も正確である。この試算表は信頼できる根拠となる。

監査人と検査官が見落とすこと

  • Tier 1:検査指摘 金融庁の2024年度モニタリング結果では、レビュー対象の約28%の業務で、試算表と帳簿の突合記録が不十分と指摘された。「チェックマークはあるが、相違点の追跡記録がない」という指摘が最も多い。
  • Tier 2:基準準拠エラー ISA 500.12は試算表の信頼性確認を要求しているが、多くの監査人は一致確認だけで終える。月次推移の異常値や、試算表に記載されない勘定科目(隠れ勘定)の検出を省略する事例が多い。
  • Tier 3:文書化の実務的間隙 試算表から財務諸表への転記プロセスが複雑な場合(複数の統合企業、複数の会計システムからの抽出)、転記の正確性検証の文書化が曖昧になりやすい。

関連用語

  • 仕訳 試算表の根拠となる個別の仕訳記録。試算表と帳簿の一致確認が必須。
  • 監査証拠 試算表は監査証拠の一種。ISA 500で定める信頼性・適切性の評価の対象。
  • 重要性の基準値 試算表で識別された誤謬を評価する際の閾値。重要性を下回れば監査意見に影響しない。
  • 監査証拠 試算表の信頼性確認に適用される基準。
  • 修正仕訳 試算表から財務諸表への調整プロセスを支える仕訳。
  • 銀行勘定調整 試算表の現金残高と銀行残高の照合プロセス。不一致の検出と追跡に不可欠。

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