Definition

繁忙期の現場でいちばん雑に扱われるのが試算表の確認。借方貸方の合計が一致している、ハイOK、チェックマークを入れて次のセクションへ。CPAAOBのモニタリングでも、レビュー対象業務の約28%で試算表と帳簿の突合記録が不十分と指摘された。「チェックマークはあるが、相違点の追跡記録がない」というパターンが最多。正直、ここで多くのチームがつまずく。

重要なポイント

> - 試算表は被監査会社の内部統制における基礎的な検証ツール。誤謬の即座の発見に直結する。 > - 試算表の一致確認が形骸化していると、CPAAOB検査で最頻出の指摘事項になる。 > - 調整項目の文書化不足が、ISA 500およびISA 320に基づく監査証拠の不足につながる。 > - 前年と同じ手順をそのまま流用するSALY型の調書は、システム変更年度に脆弱性を露呈する。

仕組み

試算表は各勘定科目の借方残高と貸方残高を記録する。仕訳が正しく記帳されていれば、借方合計と貸方合計は一致する。一致しなければ、記帳または転記のいずれかに誤謬がある。

監基報ISA 500.12は、監査人が監査証拠を評価する際にその信頼性を検証するよう定めている。試算表も証拠の一種。信頼性の確認手続は、試算表が帳簿(仕訳帳、総勘定元帳)と一致していること、そして試算表から財務諸表への転記が正確であることの両方をカバーする。

ところが現場では、多くの事務所が試算表の確認を形骸化させ、チェックマークを入れるだけで済ませる。これでは、試算表に記載されていない勘定科目が存在したり、残高が誤って入力されたりした場合に発見できない。ISA 500.A29は試算表の信頼性評価に監査人の判断と検証を要求している。機械的な一致確認だけでは持たない。

実例:田中機械製造株式会社

クライアント 日本、東京。従業員150名の機械部品製造企業。2024年度売上8,500万円。日本GAAP適用。

ステップ1:試算表の取得と帳簿との突合

試算表提示日は2025年1月20日。借方合計18,340万円、貸方合計18,340万円。一致している。 文書化ノート:調書2-1「試算表の確認」に、提示日、借方貸方合計、帳簿との相違の有無を記載。

ステップ2:主要勘定科目の月次推移確認

売掛金残高4,200万円(前年同月:3,800万円、増加率10.5%)。売上高は前年同期比7.2%増なのに、売掛金が10.5%増加している。この乖離の理由を経理責任者に確認。回答:「Q4の売上のうち、決済期限が2月のものが含まれている。通常の範囲。」 文書化ノート:確認結果を調書に記載。Q4売上高の月別内訳を証拠として添付。

ステップ3:試算表調整項目の追跡

試算表に「未払費用」(一時的な除外項目)が記載されていない。決算整理仕訳で計上予定と記載されている。監基報ISA 450では、識別された誤謬(未計上の未払費用も誤謬)の積算と評価が必須。この項目の金額を確認(推定280万円)し、重要性の基準値(800万円)との比較を実施。 文書化ノート:未払費用の見積額、根拠(契約書、請求書)、重要性判定を調書に記載。

ステップ4:財務諸表への転記確認

試算表の売掛金残高4,200万円が、財務諸表の貸借対照表に「流動資産・売掛金」として正確に転記されていることを確認。試算表と財務諸表の売掛金残高が一致する。 文書化ノート:転記の一致を示すため、試算表のコピーと財務諸表貸借対照表の該当箇所を並べた比較表を調書に添付。

結論

田中機械製造の試算表は帳簿と一致し、主要勘定科目の推移にも合理的な説明がある。未処理項目は重要性を下回り、試算表から財務諸表への転記も正確。この試算表は信頼できる根拠となる。

監査人と検査官が見落とすこと

CPAAOBの2024年度モニタリング結果では、レビュー対象の約28%の業務で、試算表と帳簿の突合記録が不十分と指摘された。「チェックマークはあるが、相違点の追跡記録がない」という指摘が最多。現場の感覚で言うと、突合は「やったかどうか」より「何を見て何を判断したか」の証拠が問われるんですよね(笑)。

ISA 500.12は試算表の信頼性確認を要求しているが、多くの監査人は一致確認だけで終える。月次推移の異常値や、試算表に記載されない勘定科目(隠れ勘定)の検出を省略する事例が多い。実務では、繁忙期にここまで手が回らないというのが本音。

試算表から財務諸表への転記プロセスが複雑な場合(複数の統合企業、複数の会計システムからの抽出)、転記の正確性検証の文書化が曖昧になりやすい。審査で「どのシステムからどう抽出したか」を聞かれて答えられない調書は、再作業対象。SALYでテンプレートをコピーした調書ほど、システム変更があった年度に弱い。前年は単一ERPだったのが当年は2つに分かれている、というケースで手続が追いつかない。

関連用語

- 帳簿記録 試算表の根拠となる個別の仕訳記録。試算表と帳簿の一致確認が必須。

- 監査証拠 試算表は監査証拠の一種。ISA 500で定める信頼性・適切性の評価の対象。

- 重要性の基準値 試算表で識別された誤謬を評価する際の閾値。重要性を下回れば監査意見に影響しない。

- ISA 500:監査証拠 試算表の信頼性確認に適用される基準。

- 修正仕訳 試算表から財務諸表への調整プロセスを支える仕訳。

- 不突合 試算表と帳簿が一致しない場合の誤謬検出メカニズム。

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