重要ポイント

キャッシュフロー計算書は、利益と実際のキャッシュの動きを調整する。減価償却費や売上債権の増減といった非現金項目が利益に含まれるため、現金ベースへの変換が必須。
営業キャッシュフローが負の会社は、継続企業の前提に対する疑義を生じさせる可能性がある。ISA 570(改訂2024)の重要な検討要素。
キャッシュフロー計算書の作成方法(直接法と間接法)により、営業活動のキャッシュフローの計算ロジックが大きく異なる。監査人は選択した方法の一貫性を検証する必要がある。

仕組み

キャッシュフロー計算書は3つのセクションから構成される。
IAS 7.10によれば、企業は営業活動、投資活動、財務活動に分類したキャッシュフローを報告しなければならない。営業活動とは、企業の主たる事業から生じるキャッシュフローであり、通常は利益計算の対象となった取引に関連する。投資活動は固定資産の取得・売却やその他の投資に関するキャッシュフローである。財務活動は、企業の資本構成の変化をもたらす取引(借入金、株式発行、配当金支払い)に関するキャッシュフローである。
営業活動のキャッシュフローは2つの方法で計算できる。間接法(IAS 7.18)は、利益から開始して減価償却費や営業活動に関連する資産負債の変動を調整する。直接法(IAS 7.19)は、営業活動から直接生じるキャッシュの流入と流出を報告する。多くの企業は間接法を採用する。なぜなら、財務会計システムから利益と資産負債変動データを取得しやすいためである。
IAS 7.39は、キャッシュフロー計算書の重要な補足情報として、フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフローから資本支出を控除したもの)を開示することを奨励している。継続企業の評価において、営業キャッシュフローが負、またはフリーキャッシュフローが借入金返済額を下回る状況は、借入人の懸念事項となる。

実例:田中物流 B.V.

クライアント:オランダの物流企業、2024年度決算、売上€38M、IFRS準拠
ステップ1:利益から営業キャッシュフローへの調整(間接法)
田中物流の2024年度税前利益は€4.2Mであった。しかし、利益には非現金項目が含まれている。減価償却費€1.1M、売上債権増€620k、買掛金増€380kである。
計算式:税前利益€4.2M - 減価償却費の逆算€1.1M + 売上債権増の控除€620k + 買掛金増の加算€380k = 営業キャッシュフロー€2.86M
文書化メモ:営業活動のセクションで、利益から開始した調整表を作成。各調整項目の金額を貸借対照表の前年度との比較から検証した。特に売上債権の増加が売上高の伸びと比例しているか、買掛金の増加が仕入高の伸びと乖離していないかを確認。
ステップ2:投資活動のキャッシュフロー検証
田中物流は2024年度に新しい配送センター建設に€2.8Mを投資した。これが投資活動のキャッシュアウトフロー。IAS 7.16に基づき、資本支出は直接的にキャッシュフロー計算書に反映される。
フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー€2.86M - 資本支出€2.8M = €60k)は、借入金返済に充当可能な余裕である。
文書化メモ:資産側のPPEカード(property, plant, equipment)の増減明細から、2024年度の資本支出€2.8Mを確認。請求書とキャッシュアウトフロー日を照合し、営業活動完了日前後での計上がないか検証。
ステップ3:財務活動のキャッシュフロー
借入金の増加€1.5M、配当金の支払い€800kが報告された。
文書化メモ:銀行からの借入契約書で新規借入を確認。配当金支払いは株主会の議事録で承認額を確認してから、現金支払いを銀行振込記録で追跡。
結論
キャッシュフロー計算書全体として、営業キャッシュフロー€2.86M、投資キャッシュフロー(△€2.8M)、財務キャッシュフロー€700k、結果として現金残高は€760k増加した。IAS 7.28-29に基づくキャッシュ勘定の終期残高と現金預金の注記と突合せて検証完了。

監査人と実務家が誤解しやすい点

  • 営業キャッシュフローの過度な信頼: 多くの監査チームは、営業キャッシュフローが正であれば継続企業の疑義は解消されると判断する。しかし、IAS 7のキャッシュフロー計算書は、営業キャッシュフロー = 健全性ではない。営業キャッシュフローがマイナスで、実質的に資産売却や新規借入で補填されている企業の調書が多い。ISA 570.10は、経営者が対応策として借入金を追加していないか、その対応策自体が実行不可能でないかを評価するよう求めている。営業キャッシュフローがマイナスで借入増で補填されている状況は、対応策の実行可能性についての重大な検討項目である。
  • 直接法と間接法の混在: クライアント企業が間接法で計算した営業キャッシュフローを、監査人が直接法の注記として改めて計算し直す例がある。IAS 7.18と19は、企業が選択した方法の一貫性を求めており、方法の変更は注記で開示する必要がある。前年度間接法で計算していて今年度直接法に変更した場合、その変更の正当性と開示の完全性を検証することが監査人の責任である。
  • 営業キャッシュフローの恣意的な定義: IAS 7.13は「営業活動」を「企業の主たる事業」に関するキャッシュフローと定義している。しかし、実務では利息支払い、法人税支払い、固定資産の小規模な売却(営業活動として計上するか投資活動として計上するか)の分類が曖昧になりやすい。企業が複数年度で分類を変更していないか、業界慣行と一致しているか(例:金融機関では利息の扱いが通常の企業と異なる)を検証する必要がある。

継続企業の前提との関係

キャッシュフロー計算書とISA 570(改訂2024)は強い関連性を持つ。ISA 570.A2は、経営者が継続企業の前提について評価する際に考慮すべき財務指標の例として、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、キャッシュ残高を明示している。営業キャッシュフローが継続的にマイナスであるか、フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー - 資本支出)が固定的な負債返済額を下回っている場合、疑義を生じさせる事象(Going Concern Risk)として分類される。
監査人は、このようなキャッシュフローの弱点を識別した場合、ISA 570.12-13に基づき、経営者が対応策(例:追加融資、事業売却、経費削減)を講じたか、その対応策が実行可能であるか、その実行可能性を支持する証拠が十分であるかを評価しなければならない。キャッシュフロー計算書の監査は、財務諸表の適切性の検証だけでなく、継続企業評価プロセスの強度確認にも用いられる。

キャッシュフロー計算書の作成における監査上の留意事項

営業活動のキャッシュフロー計算プロセスの検証: 企業の会計システムが利益から営業キャッシュフローへの自動調整機能を備えているか、またはその調整が手動で行われているか。手動調整の場合、各項目の根拠(総勘定元帳の摘要欄での記載、IT制御の有無)を確認する必要がある。
現金と現金同等物の定義の確認: IAS 7.6は「現金同等物」を流動性の高い短期投資と定義している。企業が約定期間3ヶ月以下の定期預金、または流動性の高い投資信託をこの範囲に含めているか、含めていないか。定義の変更があった場合、開示の充実性を検証する。
セグメント別キャッシュフロー開示の検証(対IFRS 8): 企業がセグメント情報を開示している場合、キャッシュフロー計算書がそのセグメント単位のキャッシュフローと整合しているか(特に投資活動のセグメント別配分)を検証する。

関連用語

  • フリーキャッシュフロー - 営業活動のキャッシュフローから資本支出を控除したもの。企業が配当金支払いや借入金返済に充当可能な現金を示す指標。
  • 営業活動のキャッシュフロー - 企業の主たる事業から生じるキャッシュの流入と流出。利益と異なり、現金ベースで表示される。
  • 継続企業の前提 - 企業が将来一定期間継続的に営業活動を行うことを前提とした財務報告の基礎。キャッシュフロー悪化は疑義を生じさせる。
  • IAS 7 - 国際会計基準におけるキャッシュフロー計算書の作成と表示を定める基準。
  • 間接法 - 利益から開始して非現金項目を調整し、営業活動のキャッシュフローを計算する方法。
  • 直接法 - 営業活動に直接関連するキャッシュの流入と流出を直接報告する方法。

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