仕組み
監査人は監査を実施した後、必ず報告書を作成する。監基報700.12は監査人に対し、財務諸表が適正に表示されているかについての結論を述べるよう求めている。この結論は4つのカテゴリーのいずれかになる。無限定適正意見、限定的不適正意見、不適正意見、意見不表明。実務で最も多いのは無限定適正意見だが、これは「完璧」を意味しない。監査人が実施した手続の結果、財務諸表が「全ての重要な側面において適正に表示されている」と確信したという意味にすぎない。
報告書の構成はISAで指定されている。監査人と被監査会社の識別、監査の対象となった財務諸表の特定、監査意見、根拠の4要素が必須。限定的不適正意見や不適正意見の場合はさらに「不適正意見の根拠」セクションが加わる。各セクションの見出しと記載内容は定められたとおり記載する。監基報700号の付録Aに記載されたテンプレートに従う事務所が大多数だが、テンプレートはあくまで例示。監基報の要件を満たしていれば他の形式も許容される。本音を言うと、テンプレートからの逸脱は検査官の疑念を招くため、大手のテンプレートを参照しておくのが無難。
実例:タナカ金属加工株式会社
被監査会社:日本の製造業企業、FY2024、売上高8,200万円、IFRS適用企業
ステップ1:監査が完了している 監査人が実証手続、分析的手続、リスク評価をすべて実施し、取得した監査証拠が十分であると判断した。重要な虚偽表示の兆候は発見されていない。
文書化ノート:最終監査調整表に「全ての指摘事項は解決」と記載。マネージャー、パートナーによる署名あり。
ステップ2:報告書のドラフトを作成 監基報700に従い、監査報告書の構成要素(監査人の識別、財務諸表の特定、監査意見、根拠セクション)をドラフトに含める。タナカ金属加工の場合、売上認識と在庫評価が監査上の主な焦点だったため、「根拠」セクションではこれらの領域で実施した手続を簡潔に述べる。
文書化ノート:調書フォルダに「750号ドラフト」フォルダを作成。テンプレートから開始し、会社固有の数字と取引高を入力。
ステップ3:重要性と虚偽表示の最終評価 売上計上の完全性テスト、月次売上高と期末応収金の比較分析から、重要性基準値(税引前利益の5%)を下回る虚偽表示の可能性は低いと判断した。負債の認識も、銀行借入と仕入債務の確認書で検証済み。
文書化ノート:最終虚偽表示スケジュール。「検出虚偽表示ゼロ、推定虚偽表示ゼロ」と記載。結論:無限定適正意見を発行することが妥当。
ステップ4:報告書を最終化し署名 パートナーが報告書を査閲し、会社の識別番号、設立年月、財務会計の基準(IFRS)、報告日を確認する。報告書は監査の完了日以後に署名する(監基報700.15)。報告書は監査委員会(あれば)に提出される前に、取締役会に配布される。
文書化ノート:監査報告書の最終版をパートナーが署名。PDF版を会社に送付し、年間報告書に掲載される前に確認を取る。
結論 タナカ金属加工の報告書は無限定適正意見で発行された。虚偽表示の検出がなく、監査手続が十分だったため、意見不表明や限定的不適正意見を発行する理由はなかった。ただし、もし売上認識に関して経営者と見解が対立していたか、監査証拠が不十分だったなら、限定的不適正意見か意見不表明の報告が必要だった。
監査人と検査官が間違えやすいポイント
第1段階:報告書の記載内容の省略 金融庁の定期検査では、監査報告書の必須要素が欠落しているケースが指摘される。特に「監査の根拠」セクションで、重要なリスク領域(売上認識、減価償却、引当金、関連当事者取引)での手続の要旨を記載していない事務所が見受けられる。監基報700.18は、監査意見に影響を与える可能性がある領域について「監査人が講じた対応」を述べるよう求めている。「売上は監査実施」という記載では足りない。正直、この指摘は最も多くの審査コメントを生む箇所。
第2段階:限定的不適正意見の発行基準の誤解 限定的不適正意見と不適正意見の使い分けが曖昧なまま報告書を発行する例がある。監基報706号では、虚偽表示が重大であるが範囲が限定される場合は限定的不適正意見、虚偽表示が広範囲である場合は不適正意見とする。範囲の「広さ」が鍵。売上が全体の30%を占め、その評価が不正確であれば、それは限定的ではなく広範囲と言える可能性が高い。現場では、この判断を一人で抱え込まず、審査担当との二者協議で確定させるのが通例。
第3段階:報告日の誤記 報告書の署名日は、監査が実質的に完了した日付。期末日ではなく、最終監査調整表への署名日でもない。実務では、財務諸表確定後、マネージャーによる最終査閲が完了した日付が報告日となるケースが多い。この日付を誤記すると、監査の時間的な信頼性が損なわれる。
他の用語との関連性
- 監基報706号(限定的不適正意見及び不適正意見): 監査報告書で無限定適正意見以外の結論を述べる場合の要件 - 監基報260号(監査委員会との意思疎通): 報告書を発行する前に、監査委員会に監査の主要な事項を報告する要件 - 監基報570号(継続企業の前提): 継続企業の前提に重大な疑義がある場合、監査報告書に「継続企業に関する注記」セクションを追加する - 監基報701号(主要監査事項): 上場企業の監査では、監査報告書に主要監査事項を記載することが要件である - IAASB国際監査基準(ISA 700): 日本の監基報700号の国際基準版
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