ポイント

  • 判断による虚偽表示は、会計基準の適用方法が不適切であると監査人が考える場合に記録される。金額が小さくても定性的特性により重要となる。
  • 累積虚偽表示スケジュールに記録されない場合、監査意見に影響を与える可能性がある。
  • 経営者の見積りプロセスの不備が判断による虚偽表示の最大の原因となる。

仕組み

ISA 450.5は、監査人が以下の状況で虚偽表示を記録するよう求めている。第一に、会計基準の適用に際して経営者の判断が不合理であると監査人が判断した場合。第二に、虚偽表示の定量的影響が重要性の基準値を下回っていても、定性的特性により重要となる可能性がある場合。
定性的特性とは何か。例えば、重要な経営指標を操作する虚偽表示、経営者ボーナスに影響を与える虚偽表示、規制要件への違反を隠す虚偽表示である。こうした虚偽表示は金額が小さくても記録する必要がある。ISA 450.5(a)は監査人に対し、個別には重要でない虚偽表示であっても、それが累積的に重要となる可能性を検討するよう求めている。
判断による虚偽表示と誤謬(error)の違いは重要である。誤謬とは無意識による誤りである。判断による虚偽表示は、経営者の判断が基準に適合していないと監査人が結論した場合に発生する。結果として、累積虚偽表示スケジュールに記録されなかった判断による虚偽表示は、監査の完了時に監査意見を左右する。

実例:田中機器工業株式会社

クライアント:日本の機械製造業、FY2024、売上25億円、会計基準はIFRS適用。
第1段階: リース契約の再評価。田中機器工業は2024年4月に新しい工作機械をリースした。リース期間は10年。経営者はこれを単純な運営リースと分類し、月額のリース料を直接費用計上していた。監査人がリース契約書を確認したところ、リース期間が資産の耐用年数(12年)の大部分を占めていた。ISA 540.13(a)に基づき、監査人はこのリース分類が不合理であると判断した。
文書化メモ:ISA 540.13(a)違反として、リース契約書の原本、経営者からの見積りプロセスに関する質問回答書、および監査人による判断の根拠を別紙に記録した。
第2段階: 修正案の計算。使用権資産と賃借義務をIFRS 16に従い計算すると、使用権資産4,200万円、初期認識時の賃借義務3,850万円となった。この修正は営業利益と総資産に影響を与える。営業利益の変化は1.8%、総資産の変化は2.3%である。
文書化メモ:IFRS 16の再計算シート、割引率の根拠(企業の増分借入金利率2.1%)、年間リース料による影響分析を別紙に記録した。
第3段階: 定性的要素の評価。虚偽表示の金額は経営者の賞与計算に関連する重要な営業利益指標に影響を与えた。ISA 450.5(b)に基づき、この定性的特性により、金額が許容虚偽表示額以下であっても重要と判断した。
結論:この判断による虚偽表示は累積虚偽表示スケジュールに記録され、監査完了時に経営者へ修正提案した。経営者はこれを受け入れ、修正を実施した。修正がなければ、リース負債の完全な開示と経営指標の正確性に対する監査意見に疑問が生じていた。

監査人と実務者が見落とすもの

  • ISA 450.5の定性的特性の評価が不十分である。多くのチームは定量的重要性(金額)だけで判断しており、定性的に重要な虚偽表示を記録していない。国際的な検査データでは、判断による虚偽表示の記録不備が指摘を受けやすい項目となっている。
  • 見積りプロセスの評価とISA 540の要求事項の統合が弱い。経営者の見積りが不合理であると判断した場合、その判断をISA 450の虚偽表示スケジュールに直ちに記録する必要がある。ただし多くの実務では、ISA 540の「合理的か否か」の判断が、累積虚偽表示スケジュールの記録ルールと切り離されている。
  • 累積虚偽表示スケジュールへの記録漏れが検査で指摘されるケースが多い。特に金額では重要性を下回るが、経営指標や規制要件との関連性がある虚偽表示の記録が不足している。

関連用語

  • 累積虚偽表示スケジュール: ISA 450で求められる、監査中に検出または評価したすべての虚偽表示の記録。定量的および定性的特性の両方を含む。
  • 見積り手続(ISA 540): 経営者の会計上の見積りの合理性を評価する手続。判断による虚偽表示の多くはここから発生する。
  • 定性的重要性: 金額の大小を問わず、その性質により財務諸表の信頼性に与える影響の程度。例えば、規制違反や経営者による虚偽表示の証拠。
  • IFRSの見積り(IFRS 13, IFRS 16): 公正価値測定や使用権資産の認識など、経営者の判断が最も必要とされる領域。ここでの不合理さは判断による虚偽表示の主要な源泉。
  • 経営者による不正表示: ISA 240で対象となる、意図的な虚偽表示。判断による虚偽表示と異なり、故意性が特徴。
  • 誤謬の定義: ISA 240で定義され、判断による虚偽表示と区別される。誤謬は無意識の誤りであり、判断による虚偽表示は経営者の判断が基準に適合していないと監査人が判断した場合に該当する。

関連ツール

判断による虚偽表示の評価および累積虚偽表示スケジュールの作成には、ciferiの虚偽表示評価ツールが有用である。定性的特性の評価チェックリストと、累積虚偽表示スケジュールのテンプレートが含まれている。

実務に役立つ監査の知見を毎週お届けします。

試験対策ではありません。監査を効率化する実践的な内容です。

290以上のガイドを公開20の無料ツール現役の監査人が構築

スパムはありません。私たちは監査人であり、マーケターではありません。