重要ポイント

- ISAに法的拘束力はなく、各国がISAを採択して国内基準化する。日本では監基報がその役割を担う。 - 2018年以降、ISAは企業統治、品管、IT監査、不正対応の4領域で新基準や拡張要件を追加してきた。 - 大手以外の監査法人は監基報に準拠しつつ、グループ監査やIFRS業務でISA本体を参照基準として使う場面が多い。 - 各基準には段落番号が振られており、調書には「ISA 320.12」のように具体的な段落で参照を残す。

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ISAの仕組み

ISAは約20の基本的監査基準と、それを支える応用指針(A項)で構成されている。ISA 200(監査の目的と一般的原則)が全業務に適用される上位基準。その下にISA 210からISA 550までの個別基準が階層化されている。

各基準の構成は2部制。要求事項(Requirement)が「〜しなければならない」と定め、監査人の最低限の義務を示す。応用指針(Application and other Explanatory Material)は実装方法と背景を説明し、判断が分かれる局面での考え方を示す。経験上、要求事項だけ読んで応用指針を飛ばすチームは少なくないが、品管レビューで「A項を読んだか」と問われて困るのは決まってそのパターン。

ISAの改訂周期は約4年。現在進行中のサイクル(ISA 240改訂版、ISA 570改訂版)は2026年12月に施行開始となる。移行期間中に既存の審査手続と調書テンプレートを見直す必要があり、IFACが公表するエクスポジャー・ドラフトで改訂内容が段階的に開示される。

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具体例:ISAと監基報が交差する場面

被監査会社:田中電子工業株式会社(東京都、売上48億円、IFRS報告者)

基準の選択と記載

監査契約書には監基報に準拠する旨を明記する。ただし田中電子工業はIFRS報告者であり、欧州子会社も抱えている。この場合、ISA本体を補助的に参照することがある。契約書には「監基報に基づき監査を実施する。国際財務報告基準の適用に関連する事項はISA 200を参照する」と明記し、適用範囲と版を特定する。

各基準の階層的適用

ISA 200は全業務に適用される上位基準。その下でISA 315(リスク評価)、ISA 320(重要性)、ISA 330(検出リスク対応)、ISA 501(特定領域)が個別に機能する。調書には各手続のISA段落番号を記載し、どの要件に対応した手続かを追跡可能にする。

改訂基準への移行

ISA 240改訂版(2026年12月施行)は不正リスク評価の要求事項を拡張する。独立性の評価手続、追加の不正リスク要素の識別、業務チーム内での不正討議の文書化、監査役等との連携強化の4点が新たに加わる。既存の調書テンプレートがこれらを網羅しているか、施行前に確認する。移行スケジュール表を監査計画に組み込むこと。

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検査官が指摘しやすい誤り

ISAか監基報かの不明確な選択は、金融庁検査で繰り返し論点になる。監査契約書に「国際基準に準拠」と書いてあるのに、調書内の段落参照が監基報とISAで混在している。ISA 320の段落を引用しているなら、重要性の計算方法もISA 320に沿って実施したことを示す必要がある。監基報の計算方法と混ざっている場合、どちらの基準で判断したのか第三者には追跡できない。

改訂版への対応遅延もよくある指摘。ISA 570改訂版は2026年12月施行だが、正直、施行日まで現行の評価プロセスで問題ないと思い込んでいる事務所は多い。施行日前から調書テンプレートの更新、チームへの周知、評価手続の修正に着手しないと間に合わない。大手以外の法人がISA準拠を掲げている場合、この移行計画の不備が検査で目立つ。

段落番号の省略も定番の問題。調書に「ISA 320」とだけ書いてあり、判断根拠となった具体的な段落(ISA 320.12)や応用指針(A項)への参照がない。品管レビューの段階で気づけばまだ対処できるが、検査で発覚すると監査人の判断プロセスそのものが疑われる。

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関連する概念

- 監基報 — ISAに基づきJICPAが策定する国内監査基準。国内の全監査法人が準拠する。 - IAASB — ISAを策定・公表する国際基準設定委員会。 - ISA 200 — 全監査業務に適用される基本基準。監査の目的と一般的原則を定める。 - ISA 315 — 被監査会社の事業環境と内部統制を理解し、監査リスクを特定する。 - ISA 320 — 重要性の基準値を設定し、調書に文書化する。 - ISA 570改訂版 — 2026年12月施行。継続企業の前提に関する評価順序が変わる。

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監査実務における位置付け

ISAは2つの機能を持つ。法的拘束力のない国際的な指針として各国の国内基準の土台になること。もう1つは、国際機関や多国籍企業の監査で直接適用される基準として機能すること。日本では監基報がISAに基づいて策定されているため、監基報に準拠すればISAの要求をほぼ充足する。

IFRS報告企業やグループ監査では、ISA本体を直接参照する場面が出てくる。監基報の最新版とISAハンドブック(IFAC発行)の該当段落を並行して確認する必要がある。段落番号は基本的に一致しているが、注釈や適用指針の記述に差異がある箇所が散在しており、参照する段落を間違えると検査指摘に直結する。

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