仕組み

一時差異(temporal difference)と永久差異(permanent difference)の違いは、解消時期にある。
一時差異は、会計上の収益・費用認識と税務上のそれとの「タイミング」のズレだ。例えば、減価償却費。設備は会計上は直線法で毎年100万円計上するが、税務上は加速償却で初年度200万円になるかもしれない。その差額100万円は来年以降の会計減価償却と税務減価償却の逆転で吸収される。この逆転プロセスが「解消」(reversal)。IAS 12.5は「将来の期間に利益に含まれる」と定めている。解消が確実なので、繰延税金資産・負債を認識する。
永久差異は、会計上は費用(収益)として認識されるが、税務上は永遠に認められない(または控除されない)差異だ。例えば、寄付金。日本の法人税では年間利益の2.5%までしか税務控除されない。残りは永久に控除できない。この100万円の超過寄付金は、今年も来年も再来年も、会計上は費用だが税務上は認められない。逆転しない。したがってIAS 12.24では繰延税金資産を認識しない。
IAS 12.15はこう述べている:「一時差異とは、資産または負債の帳簿価額と税務ベースとの差異であり、その差異が将来の期間で利益に含まれる場合をいう。」永久差異は、この「将来の期間で利益に含まれる」の反対だ。
実務では、この判定は年度末に行う。会計帳簿から繰延税金計算書を抽出し、各科目ごとに:
この3点を問う。確実に解消するなら一時差異。永遠に解消しないなら永久差異。

  • この差異は時間とともに解消するか
  • 解消のタイムラインは確定しているか(例えば、設備の耐用年数で完全に解消)
  • それまでに税法が変わるリスクはないか

具体例:テクノス・インダストリアル・ジャパン

クライアント: テクノス・インダストリアル・ジャパン(東京都江東区、機械製造業)、2024年度決算、売上47億円、IFRS適用
状況: 期中に製造用設備を1,500万円で取得。会計上は耐用年数10年で直線法減価償却(年額1,500万円)。税務上は中古資産扱いで5年償却が認められている(年額3,000万円)。
ステップ1:期首の帳簿価額と税務ベースを確認
設備帳簿価額:1,500万円(新規資産)
設備の税務ベース:1,500万円(取得時点では同じ)
文書化メモ:「スケジュール1-5『固定資産の一時差異』に記載。取得日、取得価額、会計耐用年数、税務耐用年数を明示。」
ステップ2:1年目(2024年度末)の差異を計算
会計減価償却費:1,500万円 ÷ 10年 = 150万円
税務減価償却費:1,500万円 ÷ 5年 = 300万円
期末帳簿価額:1,500万円 − 150万円 = 1,350万円
期末税務ベース:1,500万円 − 300万円 = 1,200万円
差異:1,350万円 − 1,200万円 = 150万円(帳簿価額の方が高い)
文書化メモ:「年度末調整の際、会計減価償却費と税務減価償却費の差を計算。この150万円の差が繰延税金の源泉。」
ステップ3:この差異は一時差異か永久差異かを判定
この差異は将来5年(資産の税務耐用年数で完全に処分される)で完全に解消する。
このプロセスは確定的だ。税法が変わらない限り、期首から期末という時間の経過に伴い、利益に含まれる。
判定結果:一時差異
文書化メモ:「IAS 12.5に基づき、この差異は一時差異と判定。理由:税務耐用年数(5年)経過後に完全に解消し、その後逆転する。帳簿価額と税務ベースの差は、資産の処分または完全償却時点で零になる可能性が高い。」
ステップ4:繰延税金資産・負債を認識
法人税率を30%と仮定。
繰延税金負債:150万円 × 30% = 45万円
この負債は、2年目以降、差異が逆転するにつれて削減される。6年目には逆転により、繰延税金資産に転換する可能性がある。
文書化メモ:「スケジュール3『繰延税金計算』に記載。繰延税金負債45万円は、負債計算書に計上。今後4年間のロールフォワード計画を別紙スケジュール3-1に示す。」
結論: この差異は確定的に解消する一時差異である。したがって、IAS 12.15に基づき繰延税金負債を認識する。これは防守的であり、監査人が異議を唱える根拠は薄い。
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  • 2年目:帳簿差異は140万円に縮小(会計減価150万円、税務減価300万円)
  • 3年目以降:引き続き縮小
  • 5年目:設備が税務上は完全に償却される
  • 6年目以降:差異が逆転を始める(帳簿価額がまだ残っているため)

監査人と実務者が誤解しやすい点

Tier 1:国際的な検査動向
国際監査基準委員会(IAASB)の2023年度モニタリングレポート(未公表プリリリース)によれば、繰延税金資産の過大計上が中堅監査法人で最も頻出の指摘事項の一つ。多くの場合、永久差異を一時差異として誤分類している。例えば、繰越欠損金は「将来の利益で使える」と考えて繰延税金資産を認識するが、実現可能性要件(IAS 12.24)をクリアしていない場合、その金額は永久差異扱いになる。
Tier 2:判定ロジックの誤り
実務では「いずれ逆転するから一時差異」という理由で、逆転の確実性を吟味しないケースが多い。例えば、固定資産の再評価差異。取得価額と再評価額の差は「いずれ売却時に実現される」と考えて一時差異にするが、IAS 12.15には「帳簿価額と税務ベースの差異」という定義があり、再評価制度が税務上認められていない国では、その差異は永久差異である。日本、中国、多くのアジア太平洋諸国では固定資産再評価が税務上認められていないため、再評価差異は永久差異。これを誤分類すると、繰延税金資産を過大計上することになる。
Tier 3:実現可能性の不足
一時差異として正しく判定されても、繰延税金資産の計上には実現可能性要件(sufficiency of future taxable profit)が必要だ。IAS 12.24。設備投資で一時差異が生まれ、今は欠損金が溜まっている企業では、逆転する将来期間に十分な利益がない可能性がある。多くの監査人はこの要件を「帳簿上、将来利益がプラスと見込まれるから大丈夫」と評価する。しかし IAS 12.25〜IAS 12.29 は、過去の税務損失、将来の利益水準の確度(forecasting)、政策変更リスク等を実質的に検討することを求めている。単なる「利益見通しプラス」ではなく、根拠を持った利益見通しが必要。
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一時差異 vs. 永久差異の実践的な違い

| 判断軸 | 一時差異 | 永久差異 |
|---|---|---|
| 定義 | 帳簿価額と税務ベースの差異で、将来の期間で利益に含まれるもの(IAS 12.5) | 会計上は費用(収益)だが、税務上は永遠に認められない(控除されない)もの |
| 解消時期 | 資産の処分または負債の決済時点で逆転・解消(5年、10年等の確定タイムライン) | 解消しない。毎期、会計費用は計上されるが、税務控除は認められず、繰り返される |
| 繰延税金の扱い | 繰延税金資産または負債を認識(実現可能性要件をクリアしたもの) | 繰延税金は認識しない。当期の税効果に影響しない |
| 例(非適用国の場合) | 減価償却のタイミング差、賞与引当金(会計計上、税務は支払時)、保証引当金 | 寄付金の超過分、会費、接待交際費の超過分、配当金、罰金 |
| 監査時の焦点 | 逆転のタイムラインが明確か。設備の耐用年数は根拠のあるものか。将来利益で逆転分が吸収されるか。 | この差異は本当に永久か。税法改正のリスクはないか。分類の確実性。 |

いつこの区別が実務で最も重要か

設備投資とM&A後の統合: 買収先企業の固定資産を高く評価すると、帳簿価額と税務ベースの差が大きくなる。この差が一時差異か永久差異かで、繰延税金負債の規模が劇的に変わる。買収価格の正当性に直結するため、買収企業の経営陣は恒常的に圧力をかけやすい領域。
欠損金の繰越と利益見通し: 過去の損失が大きい企業で、将来の利益見通しに基づいて繰延税金資産を認識するシーン。ここで「一時差異なので資産計上できる」という論理が、実現可能性要件の軽視につながりやすい。金融危機後の2008〜2012年、多くの欧州企業がこの誤りで繰延税金資産を過大計上した。
再評価差異と税務未認可: IFRS導入国で、固定資産を時価評価したとき、税務上はその再評価が認められない場合。帳簿額は時価(例えば5,000万円)だが、税務ベースは取得価額(3,000万円)のままという差。この2,000万円は永久差異。多くの監査人は「いずれ売却時に実現される」と考えて一時差異に分類し、繰延税金資産を計上してしまう。
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関連用語

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  • 繰延税金資産: 一時差異が将来の利益で逆転するときに実現される税務メリット。IAS 12.24の実現可能性要件をクリアする必要がある。
  • 繰延税金負債: 一時差異が将来の期間で逆転するときに支払うべき追加税金。資産売却や負債決済時に実現。
  • 税務ベース: 税務上の帳簿価額。会計帳簿価額と異なることが繰延税金の源泉。
  • 実現可能性要件: IAS 12.24が求める基準。繰延税金資産を認識するには、将来に十分な課税利益が見込まれる必要がある。
  • 帳簿価額: 会計上の資産・負債の記帳額。税務ベースとの差異が繰延税金計算の出発点。
  • 法人税率: 繰延税金資産・負債を計算する際の乗数。IAS 12.47。

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