仕組み

監基報600号第1項はグループ監査を「グループ財務諸表に関する監査意見を表明するために、1つ以上の構成単位監査人の仕事に依存する監査」と定義している。この定義が重要であるのは、グループ監査人が最終的な責任を保有しているということを明確にしているからである。構成単位監査人が監査を実施したとしても、その品質、方法、結論についてグループ監査人は監査手続を実施して確認する義務がある。
監基報600号第6項から第11項は、グループ監査人が実施すべき手続を詳述している。まず、構成単位監査人の独立性と専門能力を評価する。次に、構成単位監査人に対し、グループ監査方針、グループレベルのリスク評価結果、グループの重要性基準値(全体的な重要性および業務上の重要性)を伝達する監査指示書を作成する。その後、構成単位監査人との間で継続的なコミュニケーションを確保し、監査の進捗状況、識別されたリスク、実施した監査手続の詳細を把握する。最後に、構成単位監査の結果を検討し、グループ全体の重要性基準値の観点から、個別の誤謬がグループ財務諸表に関する監査意見に影響を与えないかどうかを評価する。
この仕組みにおいて、グループ監査人の役割は単なる統合ではない。構成単位監査人の監査が十分であるか、グループ全体の観点から見て適切な対象範囲が確保されているか、構成単位監査人がグループの指示を正確に理解し実行しているかを実質的に検証することである。

実例:ビスマルク建設グループ(オーストリア)

クライアント: ビスマルク建設グループ。親会社はウィーン所在。売上高880百万ユーロ。IFRS基準で連結財務諸表を作成。子会社は東欧4カ国(チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア)に所在。各子会社の売上高は親会社の15〜28%。
ステップ1:構成単位監査人の評価
グループ監査人(ウィーンの大型監査法人)は、各子会社の監査人の独立性を確認する。チェコ子会社の監査人はビスマルク グループの税務顧問も兼任していることが判明。監基報600号第8項は、構成単位監査人に対し「グループ監査に関連するすべての業務における独立性」を求めている。グループ監査人は、チェコ子会社の監査人に対し、ビスマルク グループの税務業務からの退職を求めた。
文書化ノート:グループ監査ファイルの「構成単位監査人評価」セクションに、各監査人の独立性確認書を添付。評価表に「独立性の課題」「解決策」「解決日」を記載。
ステップ2:グループ監査指示書の作成
グループ監査人は全体的な重要性を売上高の5%(44百万ユーロ)で設定した。業務上の重要性は全体的な重要性の75%(33百万ユーロ)で設定した。各構成単位監査人に対し、「チェコ子会社の売上高は132百万ユーロ(親会社の15%)。当該子会社に対する業務上の重要性は33百万ユーロで設定し、各トランザクションレベルでは3百万ユーロを上限とすること」と指示した。また、グループが過去に経営上の課題を抱えていた関連当事者取引について、特に注力する領域として指定した。
文書化ノート:グループ監査指示書に、重要性基準値の計算根拠、各構成単位への割り当て重要性、リスク領域の説明、監査手続の標準方針を添付。
ステップ3:構成単位監査人との継続的なコミュニケーション
グループ監査人は四半期ごとに構成単位監査人とビデオ会議を実施した。ハンガリー子会社の監査人から「新規大型契約(16百万ユーロ)の期末計上について、経営者と見解が異なっている」という報告を受けた。グループ監査人は、直ちに当該トランザクションの詳細な監査証跡を要求し、原契約書、請求書、納入完了証明書、顧客確認書を検証した。結果として、当該収益は翌期に繰り延べられるべきであることが判明した。
文書化ノート:四半期の進捗報告書に、重要な監査発見(significant findings)として当該取引の修正を記載。グループ監査ファイルに、構成単位監査人からの報告書のコピーと、グループ監査人による追加検証手続の調書を添付。
ステップ4:構成単位監査の結果の統合と評価
グループ監査人は、各構成単位監査人から最終的な監査報告書と管理書簡を受け取った。ルーマニア子会社で売上原価の見積もり誤差が8百万ユーロ検出された。全体的な重要性が44百万ユーロであるため、この誤謬はグループ全体の重要性の18%に相当する。グループ監査人は、当該誤謬がグループ財務諸表に対するリスク、他の構成単位での類似誤謬の可能性を評価した。その結果、原因は子会社固有の計算システムの不具合であり、グループ全体への波及の可能性は低いと判断した。ただし、当該子会社に対する監査追加手続を実施し、売上原価の全サンプルを再テストすることとした。
文書化ノート:グループ監査結論ファイルに、「識別された誤謬」表を作成。各誤謬の金額、発見のプロセス、グループ全体への影響評価、監査人の対応を記載。
結論: グループ監査人は、グループ全体として、構成単位監査の結果に依存することが適切であると判断した。ただし、構成単位監査人への監査指示、独立性確認、継続的なコミュニケーション、結果の統合に関する監査証跡が、グループ監査ファイルに完全に文書化されている。

監査人と検査官が誤解しやすい点

第1段階:構成単位監査人の選定と信頼性評価の不足
国際的な検査データでは、グループ監査における構成単位監査人の信頼性評価が最も指摘を受けやすい項目である。親会社監査人が「子会社は小規模なので、監査指示書だけ渡してあとは子会社の監査人に任せた」という対応は、監基報600号の要件を満たしていない。監基報600号第8項から第10項は、構成単位監査人の独立性、専門能力、グループ監査への理解度を、個別に評価する手続を要求している。独立性評価は単なるチェックボックスではなく、当該構成単位監査人が過去1年間に当該グループについてどのような非監査業務を提供してきたか、親会社との利益相反がないか、親会社への依存度(例えば、子会社監査からの報酬が当該監査人の総収入の何%を占めるか)を調査すべき項目である。
第2段階:監査指示書の不十分な記載
多くのグループ監査ファイルに見られる実務的な誤りは、グループ監査人がグループの重要性基準値を構成単位監査人に伝達しているものの、各構成単位における「業務上の重要性」の設定根拠が不明確であることである。監基報600号第11項はグループ監査人に対し、「各構成単位に対する業務上の重要性を設定する際、グループレベルでの重要性との関係を文書化すること」を求めている。単に「全体的な重要性の75%」と伝えるだけでは不十分。むしろ、「当該構成単位の売上高がグループ全体の何%であるか」「当該構成単位のリスク特性がグループ全体と異なるか(例えば、利益率が低い、新規事業である、内部統制が未成熟である)」という分析に基づいて、業務上の重要性を個別に設定し、その根拠を文書化すべきである。
第3段階:構成単位監査人とのコミュニケーション欠如
実務では、グループ監査人が監査指示書を一度提示した後、構成単位監査人との定期的なコミュニケーションを確保していないケースが散見される。監基報600号第6項は「グループ監査人は、監査の過程全体を通じて、構成単位監査人と適切にコミュニケーションすることが必要である」と述べている。特に、グループ監査人が後から識別したリスク、グループレベルで追加されたリスク領域、他の構成単位で検出された誤謬のパターンなどについて、構成単位監査人に即座にフィードバックしない場合、構成単位監査人は当該リスク領域に対して十分なテストを実施しない可能性がある。

構成単位監査と監査指示書の比較

構成単位監査人の利用方法は2つのアプローチに分類される。より高い信頼度のアプローチ(構成単位監査)と、より低い信頼度のアプローチ(監査指示書に基づくテスト)である。
| 観点 | 構成単位監査 | 監査指示書によるテスト |
|------|-----------|------------------|
| 対象構成単位の規模 | グループの重要性基準値の15%以上 | グループの重要性基準値の15%未満 |
| 監査人の責務 | 親会社監査人が構成単位監査人の仕事の質を評価し、その仕事に依存する | 親会社監査人が監査指示書に基づいて、当該構成単位の特定の項目のみをテストする |
| 対象範囲 | 構成単位の財務諸表全体(または重要な項目)が監査対象 | 構成単位のうち、親会社監査人が指定した特定のトランザクション、残高、関連当事者取引のみ |
| 構成単位監査人への評価 | 独立性、専門能力、グループ監査への理解度を個別に評価。評価結果に基づいて、構成単位監査人の仕事に依存する程度を判断 | 特定の項目に関して監査指示書を遵守するかどうかのみを確認 |
| 継続的なコミュニケーション | 四半期ごとのミーティング、進捗報告、識別されたリスクに関する協議が通常 | 必要に応じた確認のみ |
| グループレベルのリスク伝達 | グループレベルの重要なリスク領域を詳細に伝達。構成単位監査人は当該リスク領域に対して追加手続を実施 | グループ監査人が指定した特定項目のテスト指示のみ |
重要性基準値の15%が分岐点になる理由は、監基報600号第12項の考え方に根拠がある。15%未満の構成単位については、当該構成単位で個別に検出された誤謬がグループ全体の重要性に影響を与える可能性が相対的に低いと判断されるため、グループ監査人自身が指定した項目に限定したテストで足りると考えられている。これに対し、15%以上の構成単位については、当該構成単位における誤謬がグループ全体に関する監査意見に実質的な影響を与える可能性があるため、構成単位全体を対象とした監査が必要とされている。

検査官が最も指摘しやすい実務的な誤り

誤り1:構成単位監査人の独立性チェックボックス評価
構成単位監査人の独立性を評価する際、多くのグループ監査ファイルは「独立性の確認を受けた」という形式的な確認にとどまっている。実際には、監基報600号第8項は、グループ監査人に対し「構成単位監査人の倫理的要件への適合、特にグループ監査に関連する利益相反の有無」を自ら評価することを求めている。単に構成単位監査人の形式的な独立性宣言書を受け取るだけでは不十分。例えば、構成単位監査人が当該グループの関連当事者である場合、その独立性は自明ではない。グループ監査人は、当該利益相反が実務上どのような監査手続の追加につながるのか、または独立性の障害が解消されるまで当該構成単位監査人の利用を控えるべきか、を判断する責務を有する。
誤り2:業務上の重要性の設定根拠の欠如
グループの全体的な重要性が決定された後、当該重要性のうちどの程度を各構成単位に配分するかは、グループ監査人の重要な判断である。しかし、実務では「全体的な重要性の75%をすべての構成単位に一律に適用する」という機械的なアプローチが見られる。監基報600号第11項の趣旨は、各構成単位のリスク特性、財務規模、内部統制の成熟度に応じて、業務上の重要性を個別に設定することである。例えば、新興国の新規子会社とヨーロッパの成熟した子会社では、同じ売上高でも監査リスクは異なる。グループ監査人は、このようなリスク差を反映した業務上の重要性の設定根拠を、グループ監査ファイルに記載する必要がある。
誤り3:構成単位監査人への監査指示書の不十分な実行確認
グループ監査人が詳細な監査指示書を作成しても、構成単位監査人がそれを正確に実行しているかどうかを確認する手続が不十分な場合がある。例えば、グループ監査人が「関連当事者取引については全件監査対象とすること」と指示しても、構成単位監査人が一定金額以上の取引のみを対象としていた場合、グループ監査人がそのズレを検出しなければ、グループ監査の対象範囲が不適切になる。グループ監査人は、構成単位監査人から受け取った監査報告書、管理書簡、監査調書を確認し、「指示書の要件がどのように実行されたか」を追跡する責務を有する。

関連用語

  • グループ全体的な重要性(Group overall materiality): グループ財務諸表全体に対して親会社監査人が設定する重要性基準値。各構成単位監査人は、グループ全体的な重要性の情報に基づいて、各構成単位の業務上の重要性を自らの判断で設定する際の参考情報とする。
  • 構成単位(Component): グループを構成する被監査会社。子会社、支店、関連会社、共同支配企業など、グループの財務諸表に含まれるすべての法定単位が対象。
  • 業務上の重要性(Performance materiality): 各構成単位監査人がその構成単位の監査において使用する重要性基準値。通常、グループの全体的な重要性よりも低く設定される。
  • 親会社監査人(Group auditor): グループの連結財務諸表に対して監査意見を表明する責任を有する監査人。構成単位監査人の仕事に依存する場合、その品質、対象範囲、独立性を評価する責務を負う。
  • 構成単位監査人(Component auditor): グループに含まれる構成単位の監査を実施する監査人。内部監査人の場合もあり、外部監査人の場合もある。
  • 監査指示書(Audit instruction): グループ監査人が構成単位監査人に対して、グループ監査の要件を伝達するための文書。グループの重要性基準値、リスク領域、監査方針、報告要件などが記載される。

関連するciferiツール

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