仕組み

監基報401.13は、財務諸表の主張を5つの区分で整理するよう求めている。

存在又は発生

決算日に貸借対照表に計上されている資産や負債、及び期間中の取引が実際に発生したかどうかに関わる主張。棚卸資産の実地棚卸で不足分を検出したり、売上取引の納期判定を確認したりする手続が該当する。

完全性

認識されるべき資産・負債・取引のすべてが漏れなく計上されているかどうかを対象とする主張。検証は通常、肯定的確認ではなく分析的手続や逆向きのテストで実施される。買掛金の完全性であれば、期末以降に仕入先から到着した請求書をサンプリングして、決算期の負債として計上されているか確認する。

権利及び義務

企業が計上している資産について法的な権利を有しており、負債について法的な義務を有していることを対象とする主張。リース資産の所有権、担保に入っている資産の権利制限、親会社が子会社の純資産に対して有する支配力などが該当する。

評価又は配分

資産や負債が正しい金額で計上されているかを検証する主張。減価償却費の計算方法、引当金の見積り、のれんの減損テスト、公正価値測定など、見積りや会計計算の大部分がこの主張に該当する。

表示及び開示

財務諸表で採用されている分類・説明・開示内容が会計基準に準拠しているかどうかを対象とする主張。貸借対照表の流動・非流動の区分、損益計算書での営業外損益の分類、脚注での信用リスク開示などが対象となる。

監基報401.A5では、各主張に対する監査人の対応をリスク評価の結果に基づいて計画する必要があると示されている。重大な虚偽表示のリスクが高い主張には、より詳細で立入的な実証的手続を設計する。リスクが低ければ、分析的手続に限定することも許容される。

実務例:田中工業株式会社

日本の製造業者、2024年度、売上29億5,000万円、IFRS適用企業。

手順1:存在又は発生への対応

企業の売上は受注から納期までの期間が様々であり、期末の売上計上では納期判定がカギとなる。期末3営業日前後の受注伝票を確認し、納期がいつか、商品が期末までに出荷されたかを検証した。過去3年間のトラッキングデータから、平均して期末翌月に計上される売上が期末売上の約1.8%である傾向が見られた。期末時点での未出荷売上を個別検証の対象として特定。

調書メモ:テスト対象選定時に「納期判定」が単なる数字の足し算ではなく、物流記録との照合による確認プロセスが必要であることを明記。検査では、このプロセスが形式的でなく実質的に機能しているかが最も指摘されやすい。

手順2:完全性への対応

売掛金の完全性を検証するため、期末以降に顧客から到着した請求書督促状や支払い指示書をサンプリングした。確認対象は、期末から翌月末までに到着した請求書のうち、対応する売上が決算期に計上されているかどうか。

期末後の入金データベースと売掛金台帳を照合し、入金があった顧客のすべてが売掛金として認識されていることを確認。不一致が検出された場合(期末後の翌月入金に対応する売上が期末に計上されていないなど)、その理由を調査し、漏れ計上か期末調整漏れか判定した。

調書メモ:「完全性」は肯定的確認では証明できないため、逆向きテストであることを明確にすること。検査では、完全性テストが「売上のサンプリング」に変質している例が最も多く指摘されている。正直、この間違いは入所2年目あたりで一度はやる。

手順3:評価又は配分への対応

棚卸資産の評価として、期末の実地棚卸在庫について原価計算方法の正確性を検証。先入先出法が採用されているため、期末時点での仕入伝票と在庫管理システムの品目別単価が一致しているか確認した。過去2年間の原価計算の乖離率から、今年度のリスク水準を判定し、立入的手続の範囲を決定。

調書メモ:IFRS第2号「棚卸資産」では,原価計算方法の変更や例外的な調整の有無を毎期確認するよう求めている。単に「先入先出法を使用している」という確認では不足。計算の詳細フローと例外事項を個別に検証したことを記録。

各主張を個別に分析した結果、主張ごとのリスク水準が明確になり、監査計画の精度が上がった。完全性の主張では、企業の業務プロセス上、期末の売上認識が最も虚偽表示のリスクが高い領域であることが判明し、それに見合った立入的手続を実施できた。

検査で見落とされやすい点

基準に基づく主張の洗い出し不足

多くの監査調書では、財務諸表を見ながら主張を後付けで列挙している。監基報401.A3は、適用される会計基準(IFRSや日本GAAP)の要求事項から主張を導出することを求めている。IAS 2「棚卸資産」を読まずに棚卸資産の主張を立てると、減損評価に関わる評価の主張が漏れる可能性がある。繁忙期に会計基準を一つ一つ読み込む余裕がないのはわかる。だが、読まずに書いた主張一覧は品管で必ず引っかかる。SALYで前年の主張一覧をそのまま使い回すのも同じ罠。

重要性による区分の曖昧さ

企業規模が大きい場合、すべての主張に対してすべての監査手続を実施することは現実的ではない。だが、金額的に大きい主張とそうでない主張の境界線が曖昧なまま監査を進める例が多い。監基報401.11では、金額が大きい主張に対しては個別に対応するよう求めている。個別対応の根拠(重要性基準値に対する割合など)を明確にすることが検査での指摘ポイント。

主張と監査手続のトレーサビリティの欠落

主張を定義した後、それぞれの主張に対して実施した監査手続がどう対応しているかを示すマトリクスが必要になる。「存在の主張に対して、実地棚卸でサンプリングを実施した」という対応が、明示的に記録されていないケースが多い。本音を言うと、マトリクスを作るのは面倒だが、これがないと検査時に調書の全体構造を説明できなくなる。

表示及び開示との関連性

表示及び開示の主張は、純粋に会計基準の開示要求事項に対応するため、他の4つの主張とは対応プロセスが異なる。IFRS適用企業の場合、IFRS開示チェックリストで適用される各基準の開示要求をすべて確認し、財務諸表に反映されているか検証する。不動産・プラント及び機械の開示(IAS 16)、引当金の開示(IAS 37)、関連当事者取引の開示(IAS 24)、金融商品の開示(IFRS 7)が主な対象。

この主張に対する監査手続は、通常、チェックリストの網羅性確認と脚注との照合に限定される。実証的手続(現地調査など)は不要なため、監査計画段階で明確に区分する。

関連用語

- リスク評価:主張ごとのリスク水準を判定する出発点。各主張に対して重大な虚偽表示のリスク(固有リスクと統制上のリスク)を評価し、それに応じた監査手続を設計する。 - 実証的手続:各主張に対して実施する監査手続の大部分。存在性・完全性・評価などの主張に対して、具体的なテスト内容を決定する基準となる。 - 監査証拠:各主張に対して「十分かつ相当」な監査証拠が得られているかどうかを評価するための基準。主張の性質によって、必要な証拠の種類や量が変わる。 - 重要な主張:監基報401.11で定義される概念。重要性基準値の5%~10%以上の金額を占める主張、または固有リスクが高い主張。個別対応が必須。 - 会計基準の理解:主張の洗い出しの前提となる作業。適用される会計基準を読み込み、企業の会計方針と照合することで、初めて主張の完全性が担保される。

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