Definition

関連当事者取引の調書で「市場価格で売っている」と書いてある経営者の説明をそのまま受け入れたことはないだろうか。CPAAOBの検査事例集を見ると、比較可能な市場データを収集しないまま関連当事者取引の価格を受け入れた事例が繰り返し指摘されている。経験上、子会社への販売価格が独立した顧客向け価格と異なるケースは珍しくない。問題は、その差額を裏付ける客観的な証拠が調書に残っているかどうか。

仕組み

関連当事者取引が正確に記録されるには、その条件が独立当事者間で合意される条件を反映していなければならない。監基報550.A9は、比較可能な市場データがない場合に経営者の価格設定方法を評価し、市場相場を反映しているか確認するよう監査人に求めている。

独立当事者間価格の決定は一筋縄ではいかない。単純な現金取引(関連会社への工場用スペアパーツの売却など)では、目録評価や公開市場の相場表から証拠を取れる。ロイヤルティの供与、知的財産ライセンス料、内部利息率計算といった取引になると、経営者は外部の価格設定アドバイザーや移転価格研究に依拠することがある。監査人は当該アドバイザーの適格性、独立性、分析方法を評価するために追加の手続を行う。監基報550.A10は、比較可能な独立当事者間価格が利用可能で、経営者の設定価格との差がマテリアリティを超える場合、その差について経営者へ質問するよう求めている。

実例:タナカ産業株式会社

設例:日本の製造企業。2024年度、売上高45百万円。完全子会社(タナカ・ヨーロッパ B.V.(オランダ))に部品を供給。

関連当事者取引の特定 タナカ産業は2024年度を通じて子会社へ定期的に部品を販売していた。年間取引額は8,200万円。経営者は「独立当事者間価格で販売している」と主張した。

文書化ノート:関連当事者取引リストに記載。年間販売額、販売数量、販売価格がスプレッドシートに登録された。

独立当事者間価格の証拠収集 監査人は以下の証拠を要求した。(1) タナカ・ヨーロッパの購買契約書および送状、(2) タナカ産業が独立した顧客(子会社ではない顧客)に同じ部品を販売する際の販売価格、(3) 業界の目録評価ガイドラインまたは外部の価格表、(4) 経営者が割引を適用した場合の根拠資料。

文書化ノート:販売契約書、独立顧客への過去の販売請求書、日本の工業統計から業界平均価格をコピーしたスプレッドシートを収集した。

価格設定の比較分析 子会社への販売価格:1ユニットあたり215円。独立した顧客への販売価格(2024年1月から9月):1ユニットあたり230円から250円。業界平均:1ユニットあたり240円。

相違:子会社への販売価格は市場相場より3〜12%低かった。マテリアリティ(360万円)の約2%に相当する影響。

文書化ノート:価格比較表を作成し、「子会社への割引の理由:高い取引数量」という経営者からの説明を記録した。

割引の正当性の評価 監基報550.A10に基づき、監査人は割引が市場条件と一致しているか評価した。独立した顧客も「取引数量の割引」を受けているか。通常、取引数量が月間20ユニットを超える顧客は3〜5%の割引を受けた。子会社への割引(3〜12%)はこのレンジを超えていた。

文書化ノート:経営者に対し、割引幅の記録を要求。経営者は契約書に割引条件を明記していなかった。

監査上の判断 割引は経営者の記録では文書化されず、市場条件も上回っていた。監査人は関連当事者取引を開示の不十分性として指摘した。虚偽表示額ではなく開示不備(監基報550.A31)。年間決算書の脚注に「子会社との取引は市場条件と異なる可能性がある」旨の説明が追加された。

正直、繁忙期に関連当事者取引の価格検証まで手が回らないチームは多い。ただし市場データと実際の販売価格が異なるとき、「経営者が市場価格だと言っていた」は品管レビューで通らない。独立当事者間価格の客観的証拠を保有しているかどうかが分かれ目になる。

監査人が見落としやすい論点

経営者の「独立当事者間」との宣言だけでは足りない。監基報550.5は、関連当事者取引の条件を記載するよう求めている。文書化なしに「市場価格で売っている」という説明のみで済ませた事例は、国際的な検査所見でも繰り返し報告されている。

ロイヤルティや移転価格など複雑な価格設定で外部アドバイザーの報告書があっても、それだけでは監査証拠として十分ではない。監基報550.A10は、当該アドバイザーの適格性を監査人が独立に評価するよう求めている。報告書の方法論が市場条件を反映しているか、計算エラーがないか、監査人自身が確認する。

マテリアリティ未満の価格差だから報告不要とは限らない。その差が繰り返される傾向にあり、経営者の利益に一貫して有利な方向であれば、監基報550.A31に基づく開示改善の対象となる。

関連用語

- 関連当事者取引 - 独立当事者間取引は関連当事者取引のサブカテゴリー。関連当事者取引の識別と評価の枠組みを参照。

- マテリアリティ - 独立当事者間価格との相違がマテリアリティを超える場合、開示改善が必要になる根拠。

- 監基報550 - 関連当事者に関する監査基準。独立当事者間価格の評価要件の全体的な枠組み。

- 移転価格 - グループ内の関連当事者取引において、独立当事者間原則を適用するための国際的な方法論。

- 内部利息率 - グループ内融資における独立当事者間金利の設定方法。

- 監査証拠 - 独立当事者間価格を裏付ける市場データ、契約書、または外部アドバイザー報告書。

関連ツール

Ciferiの関連当事者取引チェックリストは、独立当事者間価格の検証に必要な証拠収集項目を一覧にしている。価格比較分析の文書化テンプレートが含まれている。

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