仕組み

グループ監査では、監査人は構成単位ごとに異なる許容虚偽表示額を設定する。ISA 600.35-A108がグループレベルの重要性から構成単位の許容虚偽表示額へのブレークダウンを定めている。

集約リスクが生じるメカニズムは単純。50の子会社を監査し、各社で許容虚偽表示額100万円を設定したとする。各社で80万円の誤謬が検出されなかった場合、グループ全体では4,000万円の虚偽表示が累積する。グループの重要性が5,000万円であれば、4,000万円が検出されないまま財務諸表に残ることになる。重要性の80%。これを「許容範囲」と呼べるだろうか。

ISA 600.A106は、グループ監査人が構成単位監査人に「性質が同じであれば量的に重要でない誤謬でも報告せよ」と指示することを定めている。本音を言うと、この指示を文字通り実行しているチームは少ない。多くは「許容虚偽表示額以上の誤謬のみ報告」という指示を出し、閾値以下の同類誤謬を把握できていない。

事例:エクスポートエンジニアリング株式会社

対象会社は日本の機械輸出会社。グループ売上高850百万円、30の販売子会社を保有、IFRS適用。

グループレベルの重要性を売上高の1%(8.5百万円)と設定した。ベンチマークに売上高を選んだ理由は、過去3年間の変動が±2%以内に収まっており業界内での比較可能性が高いため。

30の販売子会社のうち、売上高300百万円以上の10社を重要な構成単位と分類。残る20社は非重要な構成単位とした。重要な構成単位10社には、グループ重要性の50%にあたる4.25百万円を許容虚偽表示額として割り当てた。非重要な20社の集約許容虚偽表示額はグループ重要性の25%にあたる2.125百万円。各社の個別許容虚偽表示額は平均106万円となる。

各構成単位監査人に対し、書面で指示を発行した。「許容虚偽表示額(重要な構成単位は4.25百万円、非重要な構成単位は106万円)以下の誤謬でも、性質が同じであれば全てグループ監査人に報告してください。」非重要な構成単位については「個別に106万円以下であっても、同類の誤謬が複数社で見つかった場合にグループレベルで集約される。その都度報告が必要」と説明した。

監査完了時に、20の非重要な構成単位から報告された誤謬を集約。A社で70万円、B社で60万円、C社で80万円といった形で計7社から報告があった。合計480万円。グループ重要性8.5百万円に対しては5.6%にとどまるが、非重要な構成単位の許容虚偽表示額2.125百万円に対しては22.6%。

監査人はこの480万円を修正提案し、クライアントが修正に応じた。修正後、非重要な構成単位からの誤謬の集約値は1.45百万円に減少し、グループレベルでは許容範囲内であることを立証した。この集約プロセスを経なければ、480万円の誤謬が検出されずに財務諸表に留まっていた。

レビュアーと実務家が間違える点

CPAAOBの検査結果事例集では、グループ監査のうち22%前後で「構成単位の許容虚偽表示額の設定根拠が不十分」と指摘されている。グループ重要性から構成単位への配分方法を、単なる按分(頭数で割る、売上高比で割る)で済ませており、集約リスクを織り込んだ配分になっていないケースが目立つ。

ISA 600.A106は「性質が同じであれば量的に重要でない誤謬でも報告する」と指示することを定めているが、多くのチームは「許容虚偽表示額以上の誤謬のみ報告」という指示を出す。この指示では個別には閾値以下の同類誤謬を把握できない。集約リスク評価を機能させるには、閾値以下の報告が前提となる。

グループ監査計画書に「集約リスク評価」というセクションが存在していても、中身が形式的な事務所は多い。「集約リスクを考慮した」と書かれているだけで、構成単位レベルの許容虚偽表示額をどう計算したか、なぜその比率にしたか、どの誤謬を報告させるかという実装の詳細が欠けている。検査官が調書を開いて最初に見るのはこの部分。根拠が書かれていなければ、評価のしようがない。

関連用語

- グループ重要性: グループ全体の監査意見に対する重要性水準。構成単位の許容虚偽表示額の上限を決定する。 - 構成単位: グループを構成する個々の事業所、子会社、被投資会社。ISA 600で定義。 - 許容虚偽表示額: 構成単位レベルで設定される閾値。この額以上の誤謬は報告義務がある。 - ISA 600グループ監査: グループ監査全体の枠組みを定める基準。集約リスクは600.35-A108で扱われる。 - 虚偽表示の集約: 複数の構成単位の誤謬をグループレベルで合算するプロセス。 - 監査証拠の十分性: グループレベルでの証拠の十分性判定。個別に不十分な箇所があっても、集約により十分になる場合がある。

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