ISA 805.4は、本基準が以下の場合に適用されると定めている:(a) 個別財務諸表の監査、(b) 特定の財務諸表項目、勘定科目または項目の監査、(c) 契約上の合意に基づく財務情報の監査。ただし、財務諸表一式の監査の一部として実施される手続は対象外。 個別財務諸表の監査とは、貸借対照表のみ、損益計算書のみ、キャッシュフロー計算書のみの監査を指す。これらは完全な財務諸表セットではない。ISA 805.A3は、このような監査が融資契約、合弁契約、買収時のデューデリジェンス等で要求される場合が多いと説明している。 特定の財務諸表項目とは、売上、売上総利益、販売管理費、受取手形及び売掛金、棚卸資産等の個別勘定を指す。ISA 805.A4によれば、これらの監査も融資条件、規制要件、訴訟手続で必要とされることがある。 ISA 700(監査報告書)、ISA 315(重要な虚偽表示リスクの識別と評価)、ISA 330(評価されたリスクに対応する監査人の手続)は、ISA 805の監査でも適用される。しかし、適用方法が異なる。ISA 805.9は、これらの基準を個別財務諸表または財務諸表項目の性質に応じて適用するよう求めている。

目次

ISA 805の適用範囲と他の基準との関係

ISA 805.4は、本基準が以下の場合に適用されると定めている:(a) 個別財務諸表の監査、(b) 特定の財務諸表項目、勘定科目または項目の監査、(c) 契約上の合意に基づく財務情報の監査。ただし、財務諸表一式の監査の一部として実施される手続は対象外。
個別財務諸表の監査とは、貸借対照表のみ、損益計算書のみ、キャッシュフロー計算書のみの監査を指す。これらは完全な財務諸表セットではない。ISA 805.A3は、このような監査が融資契約、合弁契約、買収時のデューデリジェンス等で要求される場合が多いと説明している。
特定の財務諸表項目とは、売上、売上総利益、販売管理費、受取手形及び売掛金、棚卸資産等の個別勘定を指す。ISA 805.A4によれば、これらの監査も融資条件、規制要件、訴訟手続で必要とされることがある。
ISA 700(監査報告書)、ISA 315(重要な虚偽表示リスクの識別と評価)、ISA 330(評価されたリスクに対応する監査人の手続)は、ISA 805の監査でも適用される。しかし、適用方法が異なる。ISA 805.9は、これらの基準を個別財務諸表または財務諸表項目の性質に応じて適用するよう求めている。

監査の受諾と継続の判断基準

ISA 805.6は、監査人が個別財務諸表または財務諸表項目の監査を受諾する前に、当該監査の目的と適用される財務報告の枠組みを理解することを求めている。これには以下が含まれる:
経営者が個別財務諸表または財務諸表項目を作成する目的。融資申請であれば、銀行が要求する特定の情報範囲を確認する。買収検討であれば、買収者が必要とする特定の勘定科目を把握する。目的が曖昧な場合、監査範囲も不明確になる。
適用される財務報告の枠組み。日本基準、IFRS、米国基準のいずれかを明確にする。また、特別な目的の財務報告の枠組み(契約書に規定された会計方針等)の場合もある。ISA 805.A9は、この判断が監査手続の範囲と監査報告書の文言に影響すると述べている。
他の財務諸表との関係性。個別の損益計算書を監査する場合でも、期首・期末の貸借対照表項目(売上債権、棚卸資産等)への理解が必要。これらの項目に重要な虚偽表示があれば、損益計算書にも影響する。ISA 805.10は、この関係性を監査計画の段階で検討することを要求している。
財務諸表一式の監査との関係。ISA 805.17は、同一企業の財務諸表一式に対して意見が修正されている場合、個別財務諸表の監査意見への影響を検討するよう求めている。財務諸表一式に否定的意見を表明した項目が、個別監査の対象に含まれる場合は特に慎重な判断が必要。

監査手続の範囲決定

ISA 805.12は、個別財務諸表または財務諸表項目の監査において、監査人が以下を実施することを求めている:
関連する内部統制の理解。損益計算書の監査であれば、収益認識統制、購買プロセス統制、人件費統制を理解する。貸借対照表の監査であれば、資産評価統制、負債計上統制、資本取引統制も対象。ISA 315の要求事項をこの範囲で適用する。
重要性の決定。ISA 320は財務諸表全体に対する重要性を扱うが、ISA 805では個別財務諸表または財務諸表項目に対する重要性を設定する。損益計算書の監査であれば、税引前利益や売上高をベンチマークとする。特定勘定の監査であれば、その勘定残高をベースに判断する。
実証手続の実施。ISA 330の要求事項を適用するが、範囲は監査対象に限定される。ただし、関連する他の財務諸表項目への手続も必要。売上の監査では売掛金残高の検討が、棚卸資産の監査では売上原価への影響検討が含まれる。
経営者確認書の入手。ISA 580.10に基づき、個別財務諸表の作成責任と適用された財務報告枠組みへの準拠に関する経営者の確認を入手する。損益計算書のみの監査であっても、認識・測定に関連するすべての判断について経営者の確認が必要となる。

実務例:単独損益計算書の監査

中部製造株式会社の事例
中部製造株式会社(資本金5,000万円、売上高18億円、製造業)から、2024年3月期の損益計算書のみの監査依頼を受諾。メガバンクの融資条件として要求された。財務諸表一式の監査は実施していない。
ステップ1:監査範囲の確定
ISA 805.10に基づき、損益計算書に関連する貸借対照表項目を特定。売上債権(期首3.2億円、期末3.5億円)、棚卸資産(期首1.8億円、期末2.1億円)、買入債務(期首1.5億円、期末1.7億円)。これらの項目に重要な虚偽表示があれば、損益計算書の売上、売上原価に直接影響する。
文書化:監査範囲決定書に、損益計算書項目と関連する貸借対照表項目の一覧表を添付
ステップ2:重要性の設定
税引前利益2,400万円を基準として、重要性を120万円(5%)に設定。ISA 320.10を損益計算書の文脈で適用。
文書化:重要性決定書に、財務諸表全体ではなく損益計算書に対する重要性である旨を明記
ステップ3:リスク評価手続
ISA 315.13に従い、収益認識、購買循環、人件費の内部統制を理解。ただし、資産評価や負債計上の統制は損益計算書に直接関連する範囲に限定。
文書化:リスク評価調書に、損益計算書監査の範囲での統制理解である旨を記載
ステップ4:実証手続
売上高15.8億円に対し、売上カットオフテスト、売掛金残高確認書による裏付け確認。売上原価12.1億円に対し、棚卸資産実査、購買取引の証憑突合。
文書化:各手続調書に、損益計算書項目への影響を確認した旨を記載
この結果、損益計算書に重要な虚偽表示はないと結論。ただし、監査意見は損益計算書に限定され、貸借対照表やキャッシュフロー計算書には及ばない。

監査報告書の作成要件

ISA 805.14は、個別財務諸表または財務諸表項目の監査報告書において、監査の範囲を明確に記載することを求めている。標準的な監査報告書(ISA 700)とは文言が異なる。
監査意見の対象を特定する。「我々は、中部製造株式会社の2024年3月31日に終了した事業年度の損益計算書について監査を実施した」のように、監査対象を限定的に表現する。「財務諸表一式」という表現は使わない。
監査の範囲を説明する。ISA 805.A25は、監査手続が損益計算書とそれに関連する項目に限定されることを読み手に伝える重要性を強調している。「監査手続は損益計算書に記載された項目およびそれに関連する内部統制に限定されている」旨を記載。
他の財務諸表への言及制限。ISA 805.16は、監査人が他の財務諸表について意見を表明していない場合、その旨を明記することを要求している。「貸借対照表、キャッシュフロー計算書およびこれらに対する注記については監査を実施しておらず、意見を表明するものではない」と記載。
配布と利用の制限。ISA 805.A27によれば、個別財務諸表の監査報告書は特定の目的(融資申請等)で作成されることが多いため、配布先を制限する記載が適切とされる。

実務チェックリスト

以下の項目を監査完了前に確認:

  • 契約書の確認 - 監査対象が個別財務諸表または特定項目として明確に定義されているか。ISA 210.10の契約書要件を満たしているか。
  • 重要性の設定 - ISA 320の考え方を個別財務諸表または財務諸表項目に適用し、適切なベンチマークを選択したか。
  • 関連項目の検討 - ISA 805.10に従い、監査対象に影響する他の財務諸表項目を特定し、必要な手続を実施したか。
  • 内部統制の理解範囲 - ISA 315の要求事項を監査対象の範囲で適用し、過不足のない統制理解を実施したか。
  • 監査報告書の文言 - ISA 805.14の要求に従い、監査範囲と制限事項を適切に記載したか。
  • 文書化 - 個別財務諸表監査特有の判断と手続が監査調書に十分記録されているか。

よくある指摘事項

関連項目の見落とし - 損益計算書の監査で売掛金、棚卸資産への検討が不十分。これらの期首期末残高に誤りがあれば売上、売上原価に影響する。ISA 805.A15はこの関係性の検討を明示的に要求している。
重要性設定の誤り - 財務諸表全体の重要性をそのまま適用。個別財務諸表の監査では、対象となる財務諸表の性質に応じた重要性設定が必要。
監査報告書の制限記載不備 - 他の財務諸表に対する非監査の記載がない。読み手が個別財務諸表の監査と財務諸表一式の監査を混同する可能性がある。
財務諸表一式の監査意見との矛盾 - ISA 805.17は、同一企業の財務諸表一式に対して否定的意見または意見不表明を表明している場合、個別財務諸表に対する無限定適正意見は、当該個別財務諸表が財務諸表一式に含まれる項目で構成されているときには適切でないと定めている。例えば、棚卸資産の実在性に重大な疑義があり財務諸表一式に否定的意見を付したケースで、同じ棚卸資産を含む貸借対照表のみの監査に無限定意見を出すと矛盾する。

関連情報

  • 監査重要性計算ツール - 個別財務諸表監査での重要性設定に対応
  • 監査報告書テンプレート - ISA 805準拠の報告書雛形を提供
  • ISA 700 監査意見の形成ガイド - 標準的な監査報告書との比較理解に活用

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