企業概要: 田中商事株式会社(本社:東京都港区、売上高:4,200万円、従業員数:25名)は、IT関連サービス業を営む企業。2024年3月期において、事業資金の運用目的でビットコイン12.5 BTC(期末時価:約5,400万円)を保有。 保管方法: 実施した監査手続き: ステップ1: 内部統制の理解 文書化事項:暗号資産の購入承認プロセス、プライベートキー管理規程、定期的な残高照合手続きの整備状況 ステップ2: 実在性の確認 バイナンス・コインベース両取引所に対して、期末残高確認状を直接送付。API経由での残高データ取得も並行して実施。ハードウェアウォレットについては、監査人立会いのもとで0.001 BTCのテスト送金を実行し、プライベートキー管理の有効性を確認。 文書化事項:確認状の回答内容、APIデータのスクリーンショット、テスト送金の取引ハッシュ ステップ3: 評価手続き 2024年3月31日の終値について、CoinMarketCap(434万円/BTC)、コインベース取引所(433万円/BTC)、バイナンス取引所(435万円/BTC)の価格を比較。平均価格434万円を使用した企業の評価が適切であることを確認。 文書化事項:各価格ソースからのスクリーンショット、評価額の計算過程 ステップ4: 期後事象の検討 期末日後1カ月間の価格推移を確認し、異常な価格変動や保有資産に関する重要な事象がないことを確認。 文書化事項:期後価格推移グラフ、関連ニュースの検索結果 結論: 実在性・評価ともに監基報500の要求を満たす十分かつ適切な監査証拠を入手。取引所確認、プライベートキーテスト、複数ソースでの価格検証により、合計5,400万円の計上が適切であることを確認。

暗号資産監査の基本的な監査上の検討事項

監基報315における暗号資産のリスク評価


監基報315.21は、監査人に対し被監査会社とその環境を理解することを求めている。暗号資産を保有する企業では、この理解にはブロックチェーン技術の基本的な仕組み、使用している取引所やウォレットの種類、プライベートキーの管理体制が含まれる。
暗号資産の性質は従来の金融資産と大きく異なる。物理的な証書は存在せず、所有権はブロックチェーン上の記録によってのみ証明される。この特性により、監基報315.30に基づく重要な虚偽表示リスクの識別において、以下の要因を考慮する必要がある:
プライベートキーの紛失や盗難による資産の完全な消失リスク。従来の銀行預金とは異なり、第三者による復旧は不可能。取引所の破綻やハッキングによる資産の損失。顧客資産の分別管理が不十分な場合、取引所の債権者との関係で回収困難となる可能性がある。

監基報540における公正価値測定の課題


監基報540.13は、会計上の見積りに関する監査手続きを定めている。暗号資産の評価は通常、活発な市場における公正価値で行われるが、価格の極端なボラティリティと市場の断片化により、適切な評価の決定は複雑となる。
主要な暗号資産(ビットコイン、イーサリアム等)であっても、取引所間で価格差が生じることは珍しくない。監査人は複数の価格ソースを検討し、使用された評価方法が企業の会計方針と整合しているかを確認する必要がある。マイナーな暗号資産では流動性が限られ、観察可能な市場価格の入手がより困難となる。

実在性の確認手続き

プライベートキー管理の検証


暗号資産の所有権確認は、プライベートキーの管理状況の理解から始まる。企業がプライベートキーを直接管理している場合、そのキーによる署名を通じて残高の実在性を確認できる。
具体的な手続きとしては、監査人の立会いのもとで、企業担当者がウォレットソフトウェアまたはハードウェアウォレットを使用して小額の取引(例:0.001 BTC)を実行することで、プライベートキーへのアクセスを実証させる方法がある。この際、取引の詳細(送金先アドレス、金額、取引手数料)を事前に監査人が指定し、ブロックチェーン上で実際に取引が実行されることを確認する。

取引所残高の確認


取引所に保管されている暗号資産については、従来の銀行残高確認に類似した手続きを実施する。ただし、暗号資産取引所は銀行ほど標準化された確認手続きを持たないことが多い。
多くの取引所はAPI(Application Programming Interface)を提供しており、これを通じて残高情報を直接取得できる場合がある。監査人の立会いのもとで、企業担当者がAPIキーを使用して残高データを取得し、そのデータと会計記録を照合する手続きが有効だ。

評価手続きの設計

価格データソースの検討


監基報540.A42は、外部の価格情報を使用する際の信頼性評価を監査人に求めている。暗号資産の評価においては、複数の価格データソースを比較検討することが重要となる。
主要な価格データプロバイダー(CoinMarketCap、CoinGecko、ブルームバーグ等)から取得した価格を比較し、異常な価格乖離がないかを確認する。特に流動性の低い暗号資産では、少数の取引が価格に大きな影響を与える可能性があるため、取引量も考慮した評価が必要。

減損の検討


暗号資産が企業の事業モデル上、売却目的で保有されている場合、期末の市場価格での評価が適切となる。一方、長期保有目的の場合は取得原価での評価となるが、減損の兆候を継続的に評価する必要がある。
価格の一時的な下落と基本的価値の毀損を区別することは困難だが、保有する暗号資産の特性(技術的な欠陥、開発チームの活動停止、規制当局による取引禁止等)を総合的に検討し、減損の必要性を判断する。

実務例:田中商事株式会社の暗号資産監査

企業概要: 田中商事株式会社(本社:東京都港区、売上高:4,200万円、従業員数:25名)は、IT関連サービス業を営む企業。2024年3月期において、事業資金の運用目的でビットコイン12.5 BTC(期末時価:約5,400万円)を保有。
保管方法:
実施した監査手続き:
ステップ1: 内部統制の理解
文書化事項:暗号資産の購入承認プロセス、プライベートキー管理規程、定期的な残高照合手続きの整備状況
ステップ2: 実在性の確認
バイナンス・コインベース両取引所に対して、期末残高確認状を直接送付。API経由での残高データ取得も並行して実施。ハードウェアウォレットについては、監査人立会いのもとで0.001 BTCのテスト送金を実行し、プライベートキー管理の有効性を確認。
文書化事項:確認状の回答内容、APIデータのスクリーンショット、テスト送金の取引ハッシュ
ステップ3: 評価手続き
2024年3月31日の終値について、CoinMarketCap(434万円/BTC)、コインベース取引所(433万円/BTC)、バイナンス取引所(435万円/BTC)の価格を比較。平均価格434万円を使用した企業の評価が適切であることを確認。
文書化事項:各価格ソースからのスクリーンショット、評価額の計算過程
ステップ4: 期後事象の検討
期末日後1カ月間の価格推移を確認し、異常な価格変動や保有資産に関する重要な事象がないことを確認。
文書化事項:期後価格推移グラフ、関連ニュースの検索結果
結論: 実在性・評価ともに監基報500の要求を満たす十分かつ適切な監査証拠を入手。取引所確認、プライベートキーテスト、複数ソースでの価格検証により、合計5,400万円の計上が適切であることを確認。

  • 8.0 BTC:バイナンス取引所
  • 3.0 BTC:コインベース取引所
  • 1.5 BTC:ハードウェアウォレット(Ledger Nano X)
  • テスト用ウォレット 0.01 BTC:社内開発環境で使用するソフトウェアウォレット(MetaMask)

監査手続きのチェックリスト

  • リスク評価段階 - 監基報315.21に基づき、暗号資産の保有目的、管理体制、使用する取引所・ウォレットの種類を理解し、重要な虚偽表示リスクを識別する
  • 実在性確認 - 取引所残高については直接確認を実施し、自己管理ウォレットについてはプライベートキーアクセスの実証テストを監査人立会いで実行する
  • 評価検証 - 複数の独立した価格データソースから期末価格を取得し、企業が使用した評価方法の妥当性を監基報540.13に従って評価する
  • 内部統制評価 - プライベートキー管理、定期的な残高照合、承認プロセスの整備・運用状況を監基報315.26に基づいて評価する
  • 開示検討 - 暗号資産の性質、リスク、評価方法について、財務諸表での適切な開示がなされているかを確認する
  • 重要な検討事項 - 暗号資産の技術的複雑性と評価の不確実性が、監基報701に基づく監査上の主要な検討事項に該当するかを評価する

よくある問題点

取引所の確認手続き不備 - 標準的な銀行確認状の形式をそのまま使用し、暗号資産特有の確認項目(ウォレットアドレス、プライベートキー管理状況等)が不足している
プライベートキーアクセスの未検証 - 企業が提示するウォレット画面のスクリーンショットのみに依拠し、実際のプライベートキーアクセス能力を確認していない
単一価格ソースへの依存 - 企業が参照する価格ソース1つのみに依拠し、価格の妥当性について複数ソースでの検証を実施していない
期後事象の検討不足 - ISA 560.10に基づく期末日後の暗号資産価格の急激な変動や取引所の経営破綻などの事象を考慮せず、期末日時点の評価のみで監査手続を完了させている

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