Definition

割引率が0.5%動くだけで、使用価値の数字が数億円単位で揺れる。経営陣の予測キャッシュフローが経営計画と乖離していたら、それだけで減損判定がひっくり返ることもある。だからCPAAOBの検査では、使用価値(value in use)の検証手続が複雑な見積りに関する指摘の主要テーマになり続けている。

主なポイント

- 使用価値は、キャッシュフロー予測と割引率を組み合わせて計算される(IAS 36.19)。 - 減損テストでは、帳簿価額が使用価値と正味売却価格のいずれか高い方を上回る場合に減損損失が生じる。 - 計算に含めるキャッシュフローは「経営陣が実行する意図のあるキャッシュフロー」に限定される(IAS 36.A25)。 - 使用価値の計算は監査における主要な見積額の評価対象であり、検査で頻繁に指摘される。

仕組み

使用価値の計算は、IAS 36.19とIAS 36.A25に規定された3つの要素を組み合わせる。第一に、企業が予測するキャッシュフロー。第二に、その予測の対象期間。第三に、割引率(企業固有のリスクを反映したWACC)。

経営陣が作成する予測キャッシュフローが、実際の経営方針や経営計画と整合しているかを検証することが、監査人の最初のステップ。予測期間は通常5年だが、それより長い期間を正当化する情報があれば、より長い期間を使用できる。永続成長率(terminal value)を含む場合、その根拠は保守的でなければならない。

割引率(WACC)の計算は、多くの企業で外部のコンサルタントに委託される。監査人はこの計算が資本資産価格モデル(CAPM)またはビルドアップ方式で行われているか、企業固有のリスク要因が反映されているかを評価する。IAS 36.A32からA37は、割引率の決定方法を詳細に説明している。

計算結果として得られる使用価値が、帳簿価額と比較され、帳簿価額の方が高い場合に減損損失が認識される。この判定では、キャッシュフロー予測の感度分析も欠かせない。小幅な割引率の変動や売上予測の下方修正が、減損の有無の判定を覆す場合、その企業の減損リスクは高い。

具体例:木材加工企業の使用価値評価

クライアント:スウェーデンの木材加工企業A/S Skogs Industrier、2024年度、売上€58M、IFRS報告者。

同社は製材工場を保有しており、2024年中に新型高効率機械の導入を計画していた。既存の製材設備の帳簿価額は€12.8M。市場で同じ設備の中古価格は€3.2M(正味売却価格)。

ステップ1:キャッシュフロー予測の検証 経営陣の予測は、向こう5年間の営業キャッシュフローを€2.1M/年と見積もっていた。監査人は、過去3年間の実績キャッシュフロー(€1.8M/年平均)と比較し、予測が根拠なく楽観的かを判定。経営陣に対して、新型機械導入による効率改善の根拠資料(ベンダー提供の性能データ、業界統計)の提出を求めた。 ワーキングペーパー:予測キャッシュフロー検証シート。経営計画(承認済み)との整合性、過去実績との比較分析、効率改善見積もりの根拠資料を添付。

ステップ2:割引率(WACC)の計算確認 経営陣の外部コンサルタントは、WACCを6.8%と算定していた。監査人は、リスクフリーレート(スウェーデン国債利回り1.2%)、株式リスクプレミアム(5.2%)、ベータ値(0.95)、負債資本比(35%)、税率(20.6%)を個別に検証。IAS 36.A32に基づき、割引率が企業固有のリスク(営業リスク、財務リスク)を反映しているかを確認した。経験上、外部コンサル作成のWACC報告書を「ありがたく頂戴」してそのまま貼り付ける調書が多い。ここで再計算を一段挟むかどうかで、品管に拾われるかどうかが決まる。 ワーキングペーパー:WACC計算過程。各パラメータの業界標準値との比較、企業固有のリスク調整の妥当性。

ステップ3:使用価値の計算 予測キャッシュフロー:2025年€2.0M → 2026年€2.1M → 2027年€2.3M → 2028年€2.4M → 2029年€2.5M。 永続成長率:1.5%(インフレーション期待値に基づく)。 割引率:6.8%。 計算結果:現在価値€9.6M。永続成長率による残存価値(2029年以降)を6.8%で割引:€25.8M × 1.015 ÷ (6.8% - 1.5%) = €19.2M(現在価値換算)。合計使用価値:€28.8M。 ワーキングペーパー:使用価値計算シート。エクセル計算式、感度分析(割引率±0.5%、成長率±0.5%の影響分析)。

ステップ4:減損判定 帳簿価額:€12.8M、正味売却価格:€3.2M、使用価値:€28.8M。 回収可能額(使用価値と正味売却価格のいずれか高い方):€28.8M。 帳簿価額(€12.8M)< 回収可能額(€28.8M)のため、減損損失は発生しない。 ワーキングペーパー:減損判定総括表。結論:減損損失なし。判断根拠:使用価値が帳簿価額を上回る。

ステップ5:感度分析と検証 割引率が0.5%上昇した場合の使用価値:€26.4M(不足なし)。 売上予測が全体で10%下方修正された場合の使用価値:€21.6M(不足なし)。 割引率が2%上昇し、かつ売上が15%減少した場合:€15.2M(帳簿価額€12.8M上回る)。感度分析により、過度に悲観的なシナリオでなければ減損リスクは低い、というのが監査人の判定。

結論:使用価値€28.8Mは、経営陣の予測根拠が確認でき、割引率が業界標準値の範囲内であり、感度分析が合理的である限り、監査人として信頼できると判定した。

監査実務で見落とされやすい点

- 永続成長率の過度な設定:経営陣が5年目以降の成長率を2.0%以上に設定する例が多く見られる。IAS 36.A30は、成長率は経営陣が将来達成し得ると考える平均長期成長率を超えないよう求めている。多くの国の長期インフレーション期待値は1.5〜2.0%であり、これを大幅に超える設定は容認しにくい。感度分析で永続成長率を明示し、その根拠を文書化する企業は少ない。

- キャッシュフロー予測が経営計画と乖離:経営陣が財務予測では保守的な見積もりを示す一方、減損テストでは楽観的なキャッシュフロー予測を提出する事例が報告されている。IAS 36.A25は「経営陣が実行する意図のあるキャッシュフロー」を求めており、経営計画との整合性の検証は外せない。

- 割引率の検証が不十分:外部コンサルタント作成のWACC報告書をそのまま受け入れ、計算の再検証や企業固有のリスク調整の確認をしない監査チームが少なくない。割引率が1%違うと、使用価値は大きく変動する。

関連する概念

帳簿価額: 資産の取得原価から累積減価償却費を控除した金額。使用価値と比較される基準額。

正味売却価格: 資産を売却した場合に得られる現金(売却費用控除後)。減損テストでは使用価値との比較対象。

回収可能額: 使用価値と正味売却価格のいずれか高い方。この金額が帳簿価額を下回る場合に減損損失が生じる。

キャッシュフロー予測: 企業が将来得ると見込むキャッシュインフロー。使用価値計算の最も主要な要素。

割引率(WACC): 企業の資本コストを反映した割引率。使用価値計算において、予測キャッシュフローを現在価値に変換するために使用される。

感度分析: 割引率やキャッシュフロー予測の変動が使用価値に与える影響を評価する分析。使用価値の信頼性判定の起点となる。

永続成長率: 予測期間終了後の企業の長期的な成長率。使用価値計算における残存価値(terminal value)を決める要因。

Ciferiツール

減損テストチェックリスト(IAS 36評価)を参照すると、使用価値の計算プロセス全体をステップごとに検証できます。キャッシュフロー予測、割引率の根拠、感度分析の文書化方法を体系的に確認できるツール。

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