試査と分析的手続の違い

繁忙期の完了手続で「試査が通ったから分析的手続は省略でいいよね」と判断するチームは多い。経験上、この判断が審査で一番ひっくり返されやすい。監基報330.6は計画段階と完了段階の両方で分析的手続を求めており、試査単独では基準を満たさない。

実証的試査と分析的手続は、監査証拠を収集する2つの異なる方法である。試査は個別の取引や残高を検証する。分析的手続は財務数値の変動や比率をパターンから評価する。監基報330は両者の役割と適用場面を定めている。

ポイント - 試査は個別の記録や領収書を調べる。分析的手続は全体的なパターンから異常を発見する。 - 試査と分析的手続は補完的な手続である。単独で十分ではなく、組み合わせて使う。 - ISA 330.6は、計画段階の分析的手続は全業務で必須。完了段階の分析的手続も必須。試査だけでは足りない。

試査とは

試査は標本抽出に基づく。母集団から標本を選んで、個別の記録や領収書、計算根拠を詳細に検証する。ISA 530は試査の設計と評価を定めている。試査の結果から、母集団全体への結論を引き出す。試査は高い精度を持つ。金額誤謬を直接発見できる。しかし全件を調査できないため、標本リスクが生じる。標本に含まれない誤謬を見逃す可能性がある。試査は実証的手続(substantive procedures)に分類される。ISA 330.2は実証的手続の実施を求めている。

分析的手続とは

分析的手続は全体的なパターンから異常を検出する。ISA 520は分析的手続の実施、評価、記録を定めている。比率分析、前年比較、予算対比較、業界比較が分析的手続に該当する。分析的手続は迅速である。広範な数値を短時間で評価できる。しかし精度は試査より低い。異常のシグナルを発見しても、その原因は調査手続でさらに確認する必要がある。異常がないことが誤謬がないことを意味しない。閾値を超えない誤謬は検出されない。分析的手続は実証的手続に分類されることもあり、リスク評価手続に分類されることもある。ISA 315.6は計画段階の分析的手続を求めている。ISA 330.6は完了段階の分析的手続を必須とする。

監査上の相違点が問題になる場面

監査計画の段階では、分析的手続が支配的である。ISA 315は予備的な分析的手続を求めている。売上と営業費用の前年比を計算し、異常な変動をリストアップする。この段階では個別の金額を直接テストしない。異常を識別したら、その原因を調査する。試査が最も有用なのは、特定の科目や取引流れに焦点を絞る段階である。売上の粉飾懸念があれば、大型取引を試査する。見積もりが論点になる場合は、その根拠を試査する。完了段階では両者が必須である。ISA 330.6は分析的手続を完了段階で再度実施するよう求めている。試査だけで完了手続を終わらせる監査法人は多いが、基準が求めるのは両方である。全体的なパターンの再確認を調書に残さないと、検査で指摘される。

具体例:田中産業株式会社

クライアント:製造業、FY2024、売上15億円、IFRS導入企業。

ステップ1:計画段階の分析的手続

売上の前年比を計算した。FY2023は13億2,000万円。FY2024は15億円。上昇率は13.6%。過去3年の平均上昇率は4.2%である。異常な上昇。内訳分析シートに月別売上の推移を記載。11月と12月に突発的な売上が集中していることを確認。

ステップ2:リスク評価と試査計画

異常な上昇率とQ4への売上集中は、期末スイッチングのリスクシグナルである。完了手続で大型取引を試査することをプランニング・メモに記載した。試査対象の基準:個別金額5,000万円以上の取引。Q4の売上の60%を試査対象にする。

ステップ3:実証的試査

Q4の大型取引15件(売上計7億2,000万円)を選んで、契約書、納品書、請求書、入金確認を詳細に検証した。14件は正規の取引。1件(6,000万円)は12月の売上だが、納品日が1月5日である。期首取引の誤り。調整を指示した。試査結果シートに各取引の検証内容を記載。納品日の誤りを摘出した根拠(港湾関税ドキュメント、船荷証券)を書類に添付。

ステップ4:完了段階の分析的手続

上記の調整後、売上の前年比を再計算した。調整後の売上は14億4,000万円。上昇率は9.1%。同業他社の平均成長率は6.8%である。6.8%を上回る上昇の妥当性を経営者に確認した。新規顧客の獲得と既存顧客の数量増加が理由である。妥当であることを経営者見積もりの調書に記載した。完了手続として、経営者の説明、新規顧客の契約書写し、取引量の増加を示す注文書(10件サンプル)をファイルに添付。

監査実務が見落としやすい点

試査と分析的手続の役割を混同する。多くの監査チームは、試査で異常がなかったから分析的手続は不要と考える。ISA 330.6は明示的に「完了段階の分析的手続」を要求しており、計画段階の分析的手続だけでは不十分である。完了段階の分析的手続を省略すると、新しい異常や期末調整による変化を見落とす可能性がある。うちの事務所では、ここはレビューノートが一番つきやすい論点。

試査の標本サイズを過度に縮小する。「分析的手続でリスクが低いと判定されたから、試査は10件で十分」と判断するチームがある。試査の標本サイズは監基報530の精度要件に基づいて決める。分析的手続の結果は、試査の設計には影響しない。異常が検出された場合は、試査の範囲を拡大する必要がある。

分析的手続の「異常がない」を「誤謬がない」と読み違える。分析的手続で前年比が正常範囲であっても、小額の誤謬が複合して存在する可能性がある。分析的手続は広い範囲を評価するため、細部の誤謬検出力は低い。試査は個別の金額を直接検証するため、小額誤謬も発見できる。

関連用語

- 実証的手続 (Substantive Procedures) - 試査と分析的手続の両方を含む。ISA 330が規定する。 - 重要性 (Materiality) - 試査と分析的手続の両方で、テスト範囲と閾値を決定する基準。ISA 320参照。 - 監査証拠 (Audit Evidence) - 試査と分析的手続の両者が収集する。ISA 500が定義。 - 標本抽出リスク (Sampling Risk) - 試査固有のリスク。分析的手続には存在しない。ISA 530が規定。 - 異常の評価 (Evaluation of Anomalies) - 分析的手続で異常が検出された後、その原因を試査と質問で確認するプロセス。ISA 520.A39参照。 - 完了手続 (Completion Procedures) - 試査と分析的手続の両方が必須。ISA 330.6。

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