Definition

新人が入所して最初の繁忙期に必ず躓くのが、連結範囲の判定。議決権が60%だから子会社、20%だから関連会社、と単純に切り分けようとして、IFRS 10.5の「実質支配」の論点で止まる。本音を言うと、私たちのチームでも、議決権だけで子会社判定を済ませた調書を後から書き直したことがある。潜在的投票権、契約上の支配、議決権の分散状況。総合判定の根拠を残していないと、レビュアーに同じ質問を3回されて終わる。

重要なポイント

- 親会社の支配の有無で、子会社の資産・負債・収益が連結財務諸表に含まれるか決まる - 子会社の識別誤りは連結範囲の不完全性を生み、検査指摘の対象になりやすい - IFRS 10は支配モデルに基づく。議決権の保有割合だけでなく、実質的な経営支配も評価が要る

仕組み

IFRS 10(連結財務諸表)はISA 500の監査証拠の枠組みのなかで、子会社の識別と評価を監査人の手続に組み込む。親会社が被監査会社の場合、監査人は期首から期末にかけて支配関係が変わったかどうかを確認する。

支配の定義はIFRS 10.5にある。投票議決権の過半数保有、過半数未満でも経営方針の決定を支配する権利、または潜在的投票権を含む実質的な権利のいずれか。議決権保有割合だけでなく、契約上の約定や実際の経営参加状況も併せて判定する。

子会社が識別されたあと、監査人はその財務情報をどの範囲で監査対象に含めるか、または被監査会社の内部情報に基づくかを判断する。大規模な子会社は監査対象とすることが多く、規模が小さい子会社は分析的手続やサンプリングで対応する場合もある。連結範囲からの除外基準(重要性基準)は、監査人と経営者の間で明文化して共有する。

実務例:タムラ物流グループ

タムラ物流は日本の物流企業で、2024年度の売上は28億円。グループ子会社として、茨城県の倉庫運営会社(タムラロジスティクス茨城、議決権95%保有)と、シンガポールの流通拠点会社(タムラシンガポール、議決権60%保有)を保有している。

ステップ1:支配の有無の判定 議決権保有割合は95%と60%。いずれも過半数を超えているため、IFRS 10.5に基づき両社は子会社として識別される。 文書化:監査計画書の「連結範囲」セクションに、親会社の各子会社に対する議決権保有割合、保有開始日、支配開始日を記載する。

ステップ2:連結範囲への包含の確認 連結財務諸表の附注に、被監査会社が支配する子会社の一覧が記載されている。タムラロジスティクス茨城とタムラシンガポール両社が含まれているか確認する。 文書化:連結財務諸表とグループ法人税務申告書の子会社欄が一致していることを確認し、調書に「確認済み」と記載する。

ステップ3:期中の支配関係の変化 2024年4月時点でタムラシンガポール社への追加出資により議決権が55%から60%に上昇した。この時点で支配の開始日は遡及せず、2024年4月以降の財務成果を連結対象に含める。 文書化:連結財務諸表の附注に、子会社の取得時期と取得原価、取得日以降の経営成果を記載。調書には出資実行日と、当該日以降の損益の連結期間を明記する。

結論 両子会社は支配下にあり、連結範囲への包含が問題ない。支配の開始日の判定と連結損益計算書の期間設定が正確であれば、子会社に関する連結監査上の誤謬リスクは低い。

監査人と実務者が誤解しやすい点

- 支配の判定が議決権保有割合だけで行われている:IFRS 10.5(a)は「投票議決権の過半数」を基準としているが、(b)と(c)に基づく実質的な支配もある。潜在的投票権(新株予約権、転換社債など)や契約上の支配権も総合判定に入れる。金融庁の2024年度モニタリング結果でも、支配判定の根拠が不十分な事例が指摘された。経験上、議決権だけで進めた調書は、レビューでほぼ確実に戻される。

- 支配の開始日と終了日の記録が不明確:期中に支配が始まった場合、その子会社の損益計算書はその開始日以降のみ連結に含める。ただ、調書に開始日の根拠が書かれていないケースが多い。ISA 330に基づき、開始日の判定プロセスと支持証拠を残す。

- 支配終了後の子会社の記載が不完全:子会社を売却した場合、売却日以前の損益は連結に含め、以降は含めない。この期間按分処理が調書に記録されていないと、連結財務諸表の完全性に関する指摘につながる。

関連する用語

- 持分法適用会社: 親会社が20〜50%の議決権を保有し、重要な影響力を行使するが支配していない企業。子会社とは異なり、持分法で会計処理される。 - 連結財務諸表: 親会社と子会社の資産、負債、収益、費用を統合した財務諸表。IFRS 10に基づき作成される。 - 支配: IFRS 10.4に定義される概念。投票議決権の過半数保有、経営方針決定権、または実質的な権利を基に判定される。 - 潜在的投票権: 直ちには行使できないが、将来行使される可能性がある権利(新株予約権、転換社債など)。IFRS 10.5(c)で支配判定に含められる。 - 特別目的会社(SPC): 特定の金融取引を実行するために設立された企業。形式上は独立していても、実質的には親会社に支配されている場合、子会社として扱われる。 - 関連会社: 親会社が重要な影響力を行使する20〜50%保有企業。子会社ほどの支配はないが、関連会社との取引の除去処理が必要。

関連ツール

連結財務諸表の支配関係を整理し、監査対象範囲を絞り込むため、ciferi.comの連結範囲チェックリスト(IFRS 10対応)をご用意しています。子会社識別時点での支配判定フローと、期中の支配関係の変化を追跡するテンプレートを含みます。

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