重要なポイント

  • 支配はパワー、変動リターン、及びその連関の3要素すべてが充足された場合に成立する
  • 過半数未満の議決権でも事実上の支配が成立する場合がある(IFRS 10.B38~B46)
  • ISA 600.25はグループ監査チームに構成単位の識別を求めている

仕組み

IFRS 10.7は支配を3つの要素で定義している。第一にパワー(投資先の関連する活動を指揮する現在の能力)、第二に変動リターンへのエクスポージャー(投資先への関与から生じるリターンが変動する可能性)、第三にパワーとリターンの連関(パワーを用いてリターンの額に影響を及ぼす能力)である。3要素すべてが充足された場合にのみ支配が成立する。

過半数の議決権を保有していても、それだけで支配が成立するとは限らない。IFRS 10.B23は、議決権が実質的でない場合(規制上の承認が行使の前提となる場合や、株主間契約が関連する活動の指揮を制限する場合)には、パワーが存在しない可能性を認めている。逆に、IFRS 10.B38~B46は過半数未満の議決権でも事実上の支配(de facto control)が成立する状況を規定している。残りの議決権が広く分散し、他の株主が組織的に行動する実際的な能力を持たない場合がその典型である。

子会社の識別は連結範囲を決定する出発点となる。ISA 600.25はグループ監査チームに対し、グループの構造を理解し構成単位を識別するよう求めている。議決権比率が40%~60%の投資先、複雑なガバナンス構造を持つ企業体、契約上の条件により支配が生じる可能性のある特別目的事業体には特に注意を払う必要がある。

実務例:Bergmann GmbH

被監査会社:ドイツの産業用センサー製造グループ、2025年度、連結売上高8,500万EUR、IFRS適用。グループ監査チームは子会社の識別と連結範囲の妥当性を検証する。

ステップ1 — グループ構造の把握
Bergmann GmbHは4つの投資先を保有している。投資先A(オーストリア所在、議決権80%保有)、投資先B(ポーランド所在、議決権100%保有)、投資先C(チェコ所在、議決権45%保有)、投資先D(特別目的事業体、議決権なし)。投資先A及びBは明確な子会社である。問題は投資先CとDの扱いにある。
監査調書への記載:ISA 600.25に基づきグループ構造図を入手する。各投資先の議決権比率、所在地、及び関連する活動を記録する。

ステップ2 — 投資先Cの支配判定
Bergmannは投資先Cの議決権を45%保有し、残り55%は数百名の小口株主に広く分散している。過去3年間の株主総会での最大出席率は38%であり、他の株主が組織的に反対投票する実際的な能力は存在しない。Bergmannは取締役会の5席中3席を指名しており、関連する活動(製品開発戦略と価格設定)を指揮できる。IFRS 10.B42に基づき事実上の支配が成立すると判断した。
監査調書への記載:議決権の分散状況、株主総会出席率、取締役会の構成、関連する活動の特定を記録する。事実上の支配の結論に至った根拠をIFRS 10.B38~B46に照らして文書化する。

ステップ3 — 投資先Dの支配判定
投資先Dはリース資産を保有する特別目的事業体であり、Bergmannとの間でリース契約が唯一の商業活動である。Bergmannは議決権を持たないが、契約条件によりDの関連する活動(リース資産の取得・処分)を実質的に指揮し、Dのリターンの大部分を享受している。IFRS 10.B51~B54に基づき支配が成立する。
監査調書への記載:投資先Dの設立目的、契約条件、Bergmannが指揮する関連する活動、及びリターンの帰属を記録する。議決権に基づかない支配の根拠を文書化する。

結論:Bergmannの連結範囲には投資先A、B、C、Dの4社すべてが含まれる。投資先Cは事実上の支配、投資先Dは契約上の支配に基づく子会社であり、形式的な議決権比率だけでは連結範囲を正確に決定できない。

よくある誤解

  • 議決権50%超=自動的に子会社という前提 IFRS 10.B23は、議決権が実質的でない場合にはパワーが存在しない可能性を認めている。規制上の制約や株主間契約により過半数保有でも支配が成立しないケースがある。監査人は議決権の実質性をISA 500.9に基づき確認する。
  • 事実上の支配の検討漏れ IFRS 10.B38~B46は過半数未満でも支配が成立する状況を規定しているが、多くの実務者は50%を機械的な閾値として適用し、40%~49%の投資先に対する支配の検討を省略する。
  • 特別目的事業体の連結除外 議決権を保有しない特別目的事業体であっても、IFRS 10.B51~B54に基づき契約条件やリターンの帰属から支配が成立する場合がある。「議決権がないから連結不要」という判断は誤りである。
  • 支配喪失時の会計処理の見落とし IFRS 10.25は支配喪失日に子会社を連結除外するよう求めている。保持する持分はIFRS 10.25(b)に基づき公正価値で認識し、差額は損益に計上する。

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