Definition

CPAAOBモニタリングレポートで品管プロセスの形骸化が指摘される事例の多くに、根本原因分析の不在が共通する。指摘事項を一つずつ潰すだけで、なぜそれが起きたのかまで遡らない。経験上、品管レビューで指摘されたあと、根本原因の分析まで遡らずに対症療法で済ませる事務所が多い。チェックリストの追加とスタッフへの注意で終わる。半年後、同じ欠陥が別の調書で再発する。

仕組み

根本原因分析の目的は、単一の案件における欠陥の原因をこれ以上分解できないレベルまで掘り下げること。監基報 220.20 では、「品管レビューを通じて、監査の実施、監査報告書の作成、または品質管理プロセスに関連する不適合が特定される場合、その性質及び原因を評価する」と定める。

現場では、多くの事務所が「なぜその手続が実施されなかったのか」という一段階の質問で止まる。しかし根本原因分析は、その背後にある条件を問わなければならない。例えば、重要な分析的手続が実施されなかった場合、一次的な原因は「スタッフが忘れた」かもしれない。だが根本原因は、チェックリストにその手続が記載されていなかった、上位者が確認を怠った、期限が設定されていなかった等の構造的な問題かもしれない。前者に対する是正策(「スタッフに注意する」)は意味がなく、後者に対する是正策(「チェックリストを修正し、マネージャーの署名要件を追加する」)が機能する。

根本原因分析の標準的な手法は「なぜなぜ分析」。欠陥が特定されたら、最初の「なぜ」に答える。その答えに対して「なぜ」と問う。5段階程度のレベルまで進め、それ以上分解できない原因に到達する。その最終的な原因が、是正策の設計対象となる。

CPAAOBの言葉と現場の感覚

JICPAの品管レビュー事例解説集では、こうした表現が出てくる。「改善勧告事項についてだけ対症療法的に改善するという対応」。現場の感覚で言うと「指摘されたところだけモグラ叩きみたいに直して終わり」。同じ事象を、規制側は構造的失敗として、実務者は徒労感として記述する。両方の視点を持って初めて、根本原因分析が形骸化を脱する。正直、うちの法人でも数年前まで、品管レビューで挙がった項目に個別対応するだけだった。なぜそれが起きたかは誰も問わなかった。

事例: 田中工業株式会社

クライアント: 日本の製造業企業、2024年度決算、売上 38 億円、日本基準採用

場面: 品管レビューで、ISA 530(監査サンプリング)に基づく固定資産の実査手続に不備が見つかった。サンプルサイズは適切に計算されていたが、実際に実査されたアイテムがサンプル計画のリストと一致していなかった。

第1段階(表面的な原因): なぜサンプルリストの指定品が実査されなかったのか 調書への記載:「スタッフが期末に段ボール倉庫で現地実査を実施した際、在庫管理システムのバーコードリストが現場にない状態だった。スタッフは目視で一致する品を探し、リスト上の品が見つからなかったため、代わりに在庫があった品を実査した。」

第2段階: なぜバーコードリストが現場に用意されていなかったのか 調書への記載:「事務所の実査計画書では「現地にシステムリストを持参すること」と記載されていたが、現地マネージャーが在庫部門に事前通知しなかったため、IT部門がリストを印刷しなかった。」

第3段階: なぜ現地マネージャーが在庫部門に通知しなかったのか 調書への記載:「監査計画書は中央オフィスの監査マネージャーが作成し、現地マネージャーに送付されたが、「要準備物」のセクションが不明確で、現地マネージャーはそれが自分の責任だと認識していなかった。」

第4段階(根本原因): なぜ計画書の役割分担が不明確だったのか 調書への記載:「事務所のテンプレートには「監査マネージャーが準備する」と「現地責任者が確認する」という役割が記載されていなかった。また、計画書作成段階で現地責任者がレビューするチェックポイントが存在しなかった。」

結論: 根本原因は、計画段階での役割明示と現地責任者によるレビューステップの欠落。是正策として、計画テンプレートに「現地責任者による確認欄」を追加し、マネージャーがサインオフすることを要件化した。スタッフへの指導だけでは、同じ状況で再発の可能性が高い。

監査人と査察機関が誤解する点

- 第1段階で止まる。多くの事務所が「スタッフが手続を実施しなかった」という原因で是正策を終える。事務所のプロセス、チェックリスト、役割分担に問題があるかを問わない。監基報 220.20 は「不適合の原因」の評価を求めているが、これは個人の行動に限定されない。

- 個人への指導を是正策と呼ぶ。「該当スタッフと上位者が協力して改善する」という記述は根本原因分析ではなく、事象への対応にすぎない。根本原因が構造的であれば、是正策も構造的(プロセス改善、テンプレート修正、教育体制の再設計)でなければならない。

- 複数の潜在原因を並列列挙する。「原因は (1) スタッフが忘れた、(2) チェックリストがなかった、(3) 上位者が確認していなかった」とすべてを「原因」とする。なぜなぜ分析では、各段階で最も根底的な原因を特定し、それ以上分解できない状態に到達する。並列列挙は分析の放棄。

- 是正策の実効性を検証しない。是正策を定めた後、その是正策が同一の欠陥の再発を防ぐかを検証する仕組みがない。監基報 220.21 では「是正策の実施と有効性を評価する」と定める。実施確認だけでなく、その策が機能しているかの確認まで踏み込む必要がある。なお審査担当者がここを見落とすケースも、現場では珍しくない。

関連用語

- 品管レビュー: 監査完了後に実施され、監査の適切性と証拠の十分性を評価するプロセス。欠陥発見の主要な機会。 - 不適合(非準拠): 監基報またはISA/IFRSの要件に対する監査手続の不足または不適切な実施。 - 是正策: 特定された不適合が再発しないようにするための改善措置。 - 品管プロセス: 監査事務所が監査品質を維持・向上させるための制度的な仕組み。監基報 220 で詳細に定められている。 - 監査証拠: 監査人が監査上の主張を支持するために得た情報。根本原因分析では、証拠の量・質の不足がしばしば欠陥の根本原因となる。

関連ツール

監査事務所の品管体制の構築と運用については、Ciferi の ISA 220 品質管理チェックリストが、根本原因分析の実施と是正策の有効性評価の手順を段階的に案内する。

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