仕組み

監基報570.19は、企業が12ヶ月以上の営業活動の継続に関して重大な疑義がある場合、それを「重要な不確実性」と評価するよう定めている。

評価は段階的に進む。計画段階および完了段階で、監査人は継続企業に関する疑義を生じさせる事象または状況(ISA 570.A22)を識別する。次に経営者の対応策と、その対応策が疑義を消去するかどうかを評価する。対応策によっても疑義が消去されない場合、その不確実性は「重要」と判定。

ここで注意点。重要性(materiality)の金額的な基準値は、継続企業の不確実性の評価には適用されない。たとえば年間売上50百万ユーロの企業について、1百万ユーロの銀行借入の返済期限が到来し、借り換えの見通しが不確かであれば、金額的には小さくても重要な不確実性となりうる。継続企業の前提そのものに関わる疑義は、金額の大小ではなく概念的な重大性で判断する。

経営者が対応策を講じているかどうかは別問題となる。対応策がなければ重要な不確実性となる可能性が高い。対応策があっても信頼できるかどうかが焦点。経験上、「対応策あり」と書かれた調書のうち、署名済みの契約や融資内諾書まで添付されているケースは半分にも満たない。これは審査でいちばんコメントが入る箇所。

実例:スタイルハウスジャパン株式会社

クライアント概要. 日本の建設・建築設計会社、2024年度期末、売上28億円、IFRS報告。

ステップ1. 疑義を生じさせる事象の識別

2024年度下期に大手ゼネコンとの大型案件が延期決定となった。その案件は前年度売上の約15%を占める見込みだった。同時に営業債権の回収が3ヶ月遅延し始めた。 文書化ノート:別紙ISA 570チェックリスト、計画段階で特定された事象一覧。実際の契約書、ゼネコンからの延期通知メール、売掛金台帳の回収遅延データを調書に添付。

ステップ2. 経営者の対応策の評価

経営者は別の中堅ゼネコン2社との契約をとりまとめていると説明した。ただし契約はまだ署名段階に至っていない。最速で2025年1月の契約開始を想定。 文書化ノート:MOU(基本合意書)、各ゼネコンとのメール相談記録、経営者キャッシュフロー予想表。この段階では確実な受注ではないため、対応策は「計画段階」と判定。

ステップ3. 対応策の信頼性評価

2025年1月の見込み開始は、現在の現金残高および借入額では不十分である。現金残高は約8千万円。12ヶ月間の固定費(給与、事務所賃借料、減価償却を除く)は約6億円の見込み。新規案件がない場合の現金耗尽は3ヶ月以内。

銀行融資の追加枠はすでに協議済みで、「現在の売上見通しでは難しい」との回答が出ていた。 文書化ノート:銀行折衝記録、融資申込書の却下レター、実績キャッシュフロー表、ケース分析シート。対応策の裏付けが取れないため「信頼できない対応策」と判定。

ステップ4. 重要な不確実性の判定

新規案件の受注が確実でなく、融資による補填も見込めない。12ヶ月以内に現金が枯渇する可能性が高い。これは「重要な不確実性」に該当。 結論:監基報570.19に基づき重要な不確実性が存在する。監査報告書に「継続企業に関する重要な不確実性」セクションを記載する。審査にもこの判定根拠を回付し、承認を得る必要がある。

監査人・レビュアーが誤解する点

第1層. CPAAOB検査の指摘

CPAAOBの2024年度モニタリングレポートでは、継続企業に関する審査対象業務の約32%で、疑義を生じさせる事象の評価に不十分な根拠しかないと指摘された。キャッシュフロー予想が経営者による見通しだけで、裏付け資料(契約書、銀行確認、市場調査等)がないパターンが大半。本音を言うと、大手であっても中堅であっても、この指摘を受ける事務所は毎年ある。

第2層. 対応策の評価が曖昧になりやすい理由

経営者が「対応策がある」と述べても、それが実現見込みなのか計画段階なのか希望段階なのかを区別していないケースがある。ISA 570.A25では、対応策が「実行可能(capable of execution)」であるかを評価しなければならない。メールでの検討中では実行可能とは言えない。署名済みの契約または融資内諾書が必要となる。形式的なチェックで済ませると、審査で差し戻される典型例。

第3層. 評価時点の混同

完了段階(期末日から監査報告書署名日まで)における新規事象の評価が、計画段階での評価と統合されていないケースが見られる。監基報570.19改訂版では評価時点を明確に分離するよう求めている。期末日時点での疑義と監査報告書署名日時点での疑義を、調書として分けて評価しなければならない。

監査報告書への記載方法

重要な不確実性が存在する場合、監査人は監査報告書で次の形式で開示する。

標準的な段落の例:

「継続企業の前提に関する重要な不確実性について、経営者は財務諸表の注記〇〇で開示しています。この事項は、財務諸表全体の利用者による評価に重要な影響を及ぼす可能性があります。」

この段落は意見セクションの直前に挿入される。「除外事項なき適正意見」の形式は維持されるが、「重要な不確実性」セクションが読者に継続企業リスクを伝える。

関連用語

継続企業の前提. 企業が将来も営業活動を継続するという基本的な仮定。継続企業の重要な不確実性はこの仮定に対する疑義。

ISA 570改訂版. 2024年に改訂された継続企業評価の基準。評価プロセスを再整理し、疑義と対応策の関係を明確にした。

重要性. 継続企業の不確実性評価では金額的な基準値ではなく、概念的な重大性が焦点となる。

監査報告書. 重要な不確実性が存在する場合、「継続企業に関する重要な不確実性」セクションの記載が必須。

キャッシュフロー予想. 経営者の対応策の信頼性を評価する際の主要な根拠資料。

経営者の対応策. 継続企業の疑義に対する経営者の計画。実行可能性の評価が監査人の主要な判断。

Ciferiツール

継続企業チェックリスト(ISA 570版)では、重要な不確実性の判定プロセスをステップごとに整理できる。疑義の識別から対応策の評価、監査報告書記載の判断まで、各段階の文書化要点を記載している。

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