仕組み

IAS 36.9は、回収可能額が帳簿価額を下回る場合に減損損失の認識を求めている。年1回以上、減損インジケータの有無を評価する。IAS 36.12はインジケータの例として市場価格の著しい低下、法的環境の変化、技術的陳腐化、経営成績の悪化を挙げているが、これは例示列挙にすぎない。列挙されていない状況でも兆候は存在しうる。

監査人が確認すべき点は4つ。経営者が減損インジケータを網羅的に識別したか。兆候がある場合、回収可能額の計算手法は基準に沿っているか。減損損失を計上した場合、減価償却額の再計算まで完了しているか。そして翌期の調書で、前期の再計算結果が実際に反映されているか。

回収可能額の測定には2つの方法がある。正味売却価額は市場での売却価格から直接的な売却費用を控除した金額。使用価値は将来キャッシュフローの現在価値。割引率や予測キャッシュフローの詳細はIAS 36.30〜36.38に規定されている。

事例:日本の中堅製造業での減損評価

東京に本社を置く金属部品製造会社。年間売上高12億5,000万円、IFRSを適用。

減損インジケータの評価 2023年の営業利益が前年度比40%低下。業界の過剰供給が続き、主要製品の市場価格が15〜20%下落した。特定工場の稼働率は50%以下。営業利益の推移表、市場価格の比較データ、稼働率レポートを調書に添付し、インジケータが複数存在することを確認した。

回収可能額の計算 経営者は使用価値法を選択。3年間の営業キャッシュフロー予測は1年目770万円、2年目990万円、3年目1,210万円。ターミナルバリューは2%の永続成長率で計算し、割引率(WACC)は7.5%とした。調書にはキャッシュフロー予測の根拠となった販売量見積、価格設定根拠、直接原価の見積、割引率の計算根拠をすべて記載。経営者の過去の予測精度が何%だったかも確認する。

帳簿価額との比較 当該工場(キャッシュ生成単位)の帳簿価額は8,800万円。計算された回収可能額は7,150万円。差額1,650万円を減損損失として認識した。回収可能額の計算シート、帳簿価額の資産台帳との突合、減損仕訳のドラフト指摘を調書に記録。

複数のインジケータが存在し、回収可能額が帳簿価額を下回っているため、減損認識は妥当と判断した。残る検証項目は割引率の感応度分析。WACCが0.5%変動した場合に結論が変わるかどうか、最終確認が必要となる。

レビュアーと実務家が見落とすもの

IAS 36.80は、個別資産で回収可能額の測定が困難な場合にキャッシュ生成単位(CGU)レベルでのテストを許容している。現場では、個別資産レベルの検討だけで終わる事務所が多い。製造設備のように複数の資産が相互依存する場合、個別資産では減損が検出されず、CGU単位で初めて問題が見える。正直なところ、CGUの区分自体が曖昧なまま放置されている調書も珍しくない。

IAS 36.55は割引率を現在の市場評価に基づいて設定するよう定めている。ところが経営者は過去の実績値や社内のリターン目標をそのまま使うことがある。調書に「経営者が選定した割引率」と書いてあるだけで、IAS 36.55の要件との照合がない。金融庁のモニタリングでも割引率の客観的根拠の不備は繰り返し指摘対象となっている。

IAS 36.117は減損認識後に残存耐用年数と残存価額を見直し、将来の減価償却費を調整するよう求めている。減損を計上した年の監査では検証されるが、翌年度以降の調書でこの調整が実際に反映されているか再確認するチームは少ない。品管レビューで引っかかるのもこの論点。

回収可能額と帳簿価額の判定基準の比較

帳簿価額は簿価として固定的に扱われるが、減損テストの対象資産をどう識別するかで結果が変わる。IAS 36.8は「減損の兆候があるときは少なくとも毎年テストを行う」と定めるが、「兆候なし」と判断された資産にはテストが実施されないこともある。IAS 36.12の減損インジケータは例示列挙であり、列挙されていない状況でも兆候が存在しうる点を見落としてはならない。

使用価値の計算に用いるキャッシュフロー予測について、IAS 36.33は「経営者の最良の見積もり」を基本としている。この「最良」の基準が事務所ごとに異なるのが実態。ある事務所は過去3年の実績平均を最良とし、別の事務所は直近の事業計画をそのまま採用する。経験上、この差がテスト結果に最も影響を与える変数となる。

関連用語

- キャッシュ生成単位: 減損テストの最小単位。複数資産の相互依存関係を考慮する際にCGUの区分が論点となる。

- 使用価値: 回収可能額の構成要素の1つ。将来キャッシュフロー予測と割引率の設定が監査リスクの中心。

- 正味売却価額: 回収可能額のもう1つの構成要素。市場価格が容易に入手できない場合、測定が難しい。

- 減価償却: 減損認識後、減価償却ベース(帳簿価額から残存価額を控除)と耐用年数の再設定が必要となる。

- IAS 36 減損会計: 減損の認識と測定を規定する基準。IFRS適用企業すべてに適用。

- 資産評価: 減損テストの前提となる資産の初期評価。評価手法の選定に関する文書化を怠ると、テスト自体の信頼性が揺らぐ。

関連ツール

ciferi.comのIAS 36減損テスト計算機は、割引率、キャッシュフロー予測、感応度分析を1つのファイルに記録する。減損損失の計算ステップごとに監査手続を紐付け、年度ごとの比較も可能となる。

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