Definition

公認会計士・監査審査会(CPAAOB)の検査報告書では、継続企業の前提に関する評価不備が毎年のように指摘されている。営業赤字と経営者の対応策を分離せずに一括評価してしまい、調書に根拠が残っていないケースが典型例である。

仕組み

監基報570号は、継続企業の前提が妥当か否かを判断する枠組みを定めている。監基報570号.A2では、営業キャッシュフローの持続性、借入金返済能力、配当金の支払い余力、経営者の対応計画の実行可能性から評価する。

疑義を生じさせる事象の発見と、その事象に対する経営者の対応策の評価を一体に行ってはならない。監基報570号(改訂2024)では、この2ステップの分離を一層明確にした。まず危機的状況をグロスベースで全て洗い出す。その上で、経営者が提示する対応策の実行可能性を個別に検証する。対応策がない、あるいは実現可能性が低い場合、継続企業の前提が成り立たない可能性がある。

調書には、この2段階評価の根拠を具体的に文書化する。営業利益の推移、現金残高の推移、借入金の返済スケジュール、経営者による対応策の内容と実行時期、その実行可能性を支える証拠。これらが揃ってはじめて、継続企業の前提が妥当であると結論付けられる。

実務例:木製建具製造業

岡山県の木製建具製造会社。2024年度決算、売上2億8,000万円、自己資本比率28%。

疑義を生じさせる事象の洗い出し

監査チームは期中監査で以下を把握した。 - 2024年度営業利益は前年度比で40%減少(900万円から540万円へ) - 主要顧客1社が納入単価を15%引き下げるよう要求 - 金融機関からの短期借入金は現在3,200万円 - 経営者の年齢が70歳を超えており、後継者計画が未策定

調書ノート:「期中段階で以下の兆候を把握した。営業利益の下降トレンド、顧客交渉記録、借入金返済予定表、後継者計画の未整備。」

各事象の個別評価

営業利益の低下について。顧客交渉記録を閲覧し、単価引き下げは交渉段階であり最終合意には至っていないことを確認。営業部門長への聞取りで、新規顧客獲得の進捗状況を把握した。2025年度上期に2件の新規案件獲得予定であることを受注見積書で裏付けている。

借入金について。銀行との返済予定表を確認した。2025年度の約定返済額は年1,200万円。営業キャッシュフローの3年平均は1,800万円であり、返済余力がある。銀行からの融資継続確認書を取得。

調書ノート:「新規顧客獲得見積書により2025年売上増加を支持。銀行返済予定表と営業CF予測により返済能力を確認。融資継続確認書を取得。」

経営者の対応策の評価

経営者は以下の対応策を提示した。(1) 新規顧客開拓に営業担当者を2名増員、(2) 製造原価の削減のため工程管理システムを導入、(3) 既存借入金の返済スケジュール見直しを銀行と協議、(4) 後継者候補として現専務を正式に指名し、事業承継計画を策定。

各対策の実行可能性をチェックした。人員増員は既に新卒採用内定済み。原価削減システムは発注済みで2025年4月までに稼働する見込み。銀行との協議は進行中で、返済猶予による月々の返済負担軽減が検討されている。事業承継計画は2025年6月の取締役会で正式決議予定。

調書ノート:「経営者提示の4つの対応策について、採用内定書、システム発注書、銀行協議メモ、取締役会議案書により実現可能性を支持。」

経営者の対応策が実現可能であること、および営業キャッシュフローの改善見通しが裏付けられていることから、継続企業の前提は妥当と判断した。

検査で指摘されやすい誤り

CPAAOBの指摘事例

CPAAOBの検査では、継続企業の前提に疑義がある案件で、営業赤字と経営者の対応策を分離せずに一括評価し、対応策の実行可能性を支える証拠が不十分なまま監査意見を表示した事例が報告されている。監基報570号.12は完了段階での再評価を明示的に求めており、サインオフ前にもう一度全体を見直さないと審査を通らない。

実務でよく見落とされる点

経営者が「売上を回復させる」「コスト削減を行う」と述べた場合、その宣言そのものは証拠にならない。クライアントの経営者に面と向かって「根拠を出してください」と言いにくい場面ではあるが、ここで遠慮すると調書が空になる。受注見積書、契約書、コスト削減計画の詳細、外部専門家による実行可能性評価など、客観的な根拠を調書に残す。経験上、特に見落としやすいのは対応策が自社判断で進められるか(人員削減など)、外部要因に依存するか(大口顧客との単価交渉など)の区別である。後者は実現可能性の立証が格段に難しい。

改訂基準との齟齬

監基報570号(改訂2024)では、経営者が提示する対応策について「実行が可能であるか」の評価を監査人に求めている。「経営者が対応する予定」という認識だけでは不十分。対応策が本当に実行可能か、実行に必要なリソースや時間、外部承認が確保されているかを検証する。ここを曖昧にすると審査で差し戻される。

関連用語

- 重要な疑義を生じさせる事象: 継続企業の前提に疑問を生じさせる具体的事象(営業赤字、債務超過、主要顧客喪失、借入金の返済不能など)。監基報570号.A1に例示

- 経営者による評価期間: 経営者が継続企業の前提を評価する際に考慮する期間(通常、決算日から12ヶ月以上)。監査人はこの期間の妥当性を検討する

- 監査意見の修正: 継続企業の前提が成り立たない、または成り立たない可能性が重大な場合、監査報告書に除外事項付き意見や不適正意見を表示する

- 開示の十分性: 継続企業に関する重大な不確実性が存在する場合、その内容と経営者の対応策が財務諸表注記に十分開示されているかを確認する

- 監基報570号(改訂2024): 2026年12月以降の監査から適用。現行基準との主な変更点は、事象評価と対応策評価の分離、および評価期間の明確化

- ISA 570(改訂版): 国際監査基準における継続企業の監査。日本の監基報570号はこれに準拠

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