正確性の主張とは

正確性の主張(completeness assertion とは異なり)は、計上された金額や数量が、その基礎となる取引、帳簿記録、支援ドキュメント、または他の情報源と一致しているかどうかを述べるものである。監基報 330.A26 は、監査人に各主張レベルの重要性を考慮した上で、リスク評価を実施し、そのリスクに対応する監査手続を設計することを求めている。
売上高の主張であれば、計上された売上金額が実際の販売記録と一致しているか、売掛金残高が個別の請求書と合算されるか、棚卸資産の数量が実地棚卸と一致しているか、といった形で正確性が問われる。監査実務では、正確性の主張に対する監査手続が最も時間を費やされるセクションである。

事例:正確性の主張の適用

事例企業:阿南工業株式会社
阿南工業は香川県に本拠を置く機械部品製造業者。2024年度の売上高は約8,500万円。IFRS 簡易適用企業。FY2024 監査において、売上高と売掛金の正確性主張をテストする。
ステップ 1:主張の識別
売上高 8,450 万円について、以下の主張が該当する:
正確性の主張では、8,450 万円という金額が、実際の出荷数量、単価、請求書と正確に一致しているかを問う。
ドキュメント化ノート:監査計画書に各主張ごとのリスク評価結果を記載。特に正確性主張について「統制は高い」「固有リスクは中」と判断した根拠を明記する。
ステップ 2:サンプリング設計
売上取引 450 件中、95%の信頼度で許容誤謬率 3%以下を検出する設計で、65 件をサンプル抽出。
ドキュメント化ノート:サンプリング計画書に以下を記載。信頼度 95%、許容誤謬率 3%、実施順序は「売上記録から請求書へ」と「請求書から売上記録へ」の両方向テストを実施。
ステップ 3:監査手続の実施
65 件のサンプルについて、以下を検証する:
各件ごとに検証結果を記載。誤謬がないことを確認した旨を報告。
ドキュメント化ノート:各サンプル件について、照合した書類(請求書、出荷伝票、納品書)を参照資料として添付。誤謬が発見されなかった旨を結論として記載。
結論
65 件全てで正確性が確認された。サンプルから推定される誤謬がゼロであるため、売上高 8,450 万円について正確性の主張は妥当と判断。

  • 存在性:計上された売上は実在の取引に基づいているか
  • 完全性:全ての売上が計上されているか
  • 正確性:計上額が正しく計算・記録されているか
  • 請求書に記載された単価と、システム内の単価マスタが一致しているか
  • 出荷数量と請求数量が一致しているか
  • 計算(数量×単価+税)が正確か

監査人が誤解しやすい点

  • 監基報 330 では「各主張レベルのリスク」の評価を求めている: 金融庁 2023 年度モニタリング結果では、監査人が主張をリストアップしながらも、実際のリスク評価が曖昧であることが指摘された。正確性主張について「中程度のリスク」という一般的な判断だけで、具体的な理由を文書化していない例が多い。
  • 「正確性」と「完全性」を区別する: 監基報 330.A26 では、各主張を明確に分離することを求めている。完全性主張(全ての取引が計上されているか)のテストと、正確性主張(計上額が正確か)のテストは別個に設計する。
  • ボトムアップと トップダウンの両方向テスト: 統計的サンプリングを使う場合、「帳簿記録から源泉書類へ」の検証だけでは不十分。「源泉書類から帳簿記録へ」の両方向テストを文書化することで、計上漏れリスクと計上誤謬リスクを両立して対応していることが明確になる。
  • 推定誤謬率の母集団拡大効果を過小評価する: サンプル内で発見された正確性の誤謬が1件であっても、統計的サンプリングではその誤謬率を母集団全体に推定する。監基報530.14は推定誤謬を許容虚偽表示と比較する評価を求めており、件数が少ないことを理由に追加手続を省略する監査チームが多い。

関連用語

  • 主張(Assertion): 金額、数量、開示、プレゼンテーション、および説明に関する対経営者の表現。正確性主張はこの 5 つの主張カテゴリーの一つ。
  • 完全性の主張(Completeness Assertion): 計上されるべき全ての取引が実際に計上されているか。正確性との大きな違いは「計上されるべきものが全て含まれているか」という視点。
  • 存在の主張(Existence Assertion): 計上された資産、負債、取引が実在し、被監査会社に属しているか。正確性ほど数値的な検証を要しない場合が多い。
  • 実証的手続(Substantive Procedures): 正確性主張をテストする主要な手法。詳細テストとして、サンプリング、分析的手続、金額の再計算などを含む。
  • 統計的サンプリング(Statistical Sampling): 監基報 530 で定義。正確性主張のテストで広く使用される、母集団の誤謬率を推定する手法。
  • 金額監査(Substantive Audit of Amounts): 正確性主張に対応する監査プロセス全般。計上額の正確さを直接テストする。

関連ツール

ISA 330 正確性主張テンプレート: 被監査会社の各主張に対する監査人の評価および対応手続を文書化するテンプレート。正確性主張の具体的なリスク評価とテスト設計を支援。
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